ライフスタイル

クワトロ大尉の言葉が突き刺さる「新しい時代を作るのは老人ではない!」という話
ライフスタイル 2024.11.30

クワトロ大尉の言葉が突き刺さる「新しい時代を作るのは老人ではない!」という話

取材を通じて、さまざまな20代のクルマ好きの方と知り合う機会がある。そして取材を終えるたびに、赤い彗星シャア・アズナブルことクワトロ・バジーナ大尉が機動戦士Zガンダムの劇中で放った「新しい時代を作るのは老人ではない!」の台詞が脳内でフラッシュバックする(「なんのこと?」と思ったら、友人知人のガンダム好きに聞いてみてください。喜んで教えてくれます)。 劇中のシャア(クワトロ・バジーナ)の年齢は27歳という設定。いまでこそ20代の発言とは思えないと感じるが、このシーンをリアルタイムで観たのは小学生のとき。当然ながらものすごく年上の人が発しているセリフに思えた。妙に大人びて見えたシャア(クワトロ・バジーナ)の「新しい時代を作るのは老人ではない!」の台詞は、小学生のガキンチョには理解不能で、いまだに記憶に残っているほどだ。そしていつの間にかアラフィフになってしまった現在、この台詞がボディーブローのように効いてくる。 なぜなら、20代のクルマ好きの人たちと話をしていると、もう、明らかに自分が新しい時代を作ろうとしている世代の人たちとは違う星?の住人であることをを否が応でもでも実感してしまうからだ。もちろん、この内容自体が老害発言であることは自覚しているつもりだが・・・。 敢えて自戒の念を込めて、ギャップに感じたことをいくつかまとめてみた。 ■1.もしやインターネットの恩恵?初対面同士でも和気藹々 かつてプロ野球では、他球団の選手との交流(特にグラウンド上)は御法度だったという。しかし最近では、1塁ベース上で他球団の選手同士が楽しそうに会話をしている光景を見ることがある。WBCやオールスターなど、球団の枠を超えて同じチームで戦えば、チーム(ライバル球団)の垣根を超えて関係性がより深まるだろう。ましてや、お互いにライバルであっても敵ではないのだから、これはこれでいいのかもしれない。 翻ってクルマ界隈の話。かつて、走り屋が集まるようなスポットにやってくるクルマとそのオーナーたちは一匹狼的な人か、仲間同士でつるんでいるようなイメージがあった(もちろん、地域や場所によって違いはあると思いますが)。 しかし現在は、深夜のパーキングエリアなどに集まっている人たちを見ていると、初対面同士でも和気藹々と楽しそうに話している。事実、カッコいいと思ったクルマの所有車と思しき若い人に筆者が話し掛けてみて素っ気ない(いわゆる塩対応)だったことはほとんどといっていいほどなかった。むしろ、お父さん世代の方が「話し掛けるなオーラ」が出ていることが多い気がする。 ■2.リア充度高め 一昔前のクルマ好きというと、男同士でつるんで女性とは縁遠い…というケースも珍しくなかったように思う。手塩に掛けて造り上げた愛車を手放し、結婚資金や指輪代に充てたというエピソードを、数え切れないほど聞かされた。人はこうして大人になっていくのだろうか・・・。 (単なる偶然かもしれないが)取材先で知り合う20代のクルマ好きの人たちの仲間に、女の子が混じっていることが多い(しかもかわいい子が多い!)。フットサルやポケモンGOなど、さまざまな娯楽のひとつにクルマ趣味があって、アングラ臭がしないのだ。彼氏がクルマ好きで、仕方なくついてきている(なので機嫌悪い)・・・そんな時代を経験してきた身としてはうらやましい限りだ。 ■3.見た目やんちゃだけど、バリバリ稼いでいる ちょっといかついクルマに乗っていて、昔だったら明らかにやんちゃな格好をしている人に取材するべく話し掛けることがある。正直「この人に話し掛けて大丈夫かなあ」と思うこともある。ところが、いざ話し掛けてみると、拍子抜けするくらいものすごく好青年で、しかもかなりディープなクルマ好きだったりする。見掛けで判断してはダメだなと猛省した次第だ。 ちょっといかついクルマに仕上げるまでの試行錯誤やこだわりも興味深い。絶妙な車高を導き出し、実用性を兼ね備えるまでいかに大変だったとか、愛車に掛けるこだわりだとか、かなりの研究を重ねていることが分かる。「若いし、独身だから無茶できるんでしょ?」というおじさん世代からのイヤミが聞こえてきそうだが、さにあらず。妻子がいて、ローンを組んで家を持ち、仕事もバリバリこなしているような方も少なくない。 「昔は結構やんちゃしてたっスけどね」といいつつ、バリバリを仕事をこなし、実際、結構稼いでいるようだ。そうでなければ、家族を支え、マイホームを手に入れて、なおかつ現行モデルのトヨタ アルファードにフルエアロは組めないだろう。仮に共働きだったとしても、たとえ残クレで手に入れたとしても、それなりに稼ぎと社会的な信用(きちんとローンが組める)がなければこの構図は成り立たない。「将来、独立して稼げるようになったら、ベンツのSクラスを新車で買ってみたいっスよね」も、ビックマウスでもなんでもなく、数年後にはあっさりと実現していそうな気がする。 ■4.原体験で決まる。父親がクルマ好き 話を伺っていると、父親がクルマ好きで、気づけば自分も…という方が多い。泣かせるエピソードとして、ステアリングや追加メーターなど、父親が若いときに愛用していた部品を受け継ぎ、自分の愛車に取り付けているという方が何人もいた。反面、父親がクルマ好きで、息子さんはさっぱり興味なし、というケースも少なくない。その分岐点はどこにあるのだろうか?ちょっと本気で研究してみたい。 父親が憧れや尊敬の対象であったり、大人になったいまでも良好な親子関係を築き、会えばエンドレスでクルマ談義。目下、電車大好きの5才の息子がクルマ好きになってくれるかは未知数だけど、仕事で借りてきたクルマを見せたり、助手席に乗せたりするなどの「原体験」になるような種まきはしているのだが、果たして・・・。 ■まとめ:いつの時代も「新しい時代を作るのは老人ではない?」 かつてNHKで放映されて、最近になって復活した「プロジェクトX」。放送開始から割と初期の段階で「執念の逆転劇 世界を驚かせた一台の車/名社長と闘った若手社員たち」という特集が組まれた。要約すると、アメリカの排ガス規制法である「マスキー法」に、ホンダの当時の若手社員が奮起してCVCCエンジンを開発し、見事世界で初めてクリアするというストーリーだ。当時の社長であった本田宗一郎は、手塩に掛けて育ててきた若者たちの成長した姿を見るにつけ、その座を退いたという。 「ったく、若いモンのクルマは…」などと思っている老害の方が危険かもしれないと思うことも正直ある。もちろん、筆者も例外ではない。もう、若くはない。認めたくないけれど、退化(老化)がはじまっている。かつてやんちゃをしていたはずのおじさん世代の方も、もうその感覚を忘れてしまっているのかもしれない。 取材を通じてさまざまな世代の方と接して感じるのは、年齢を重ねた方のほうが「えっ…」と思うことが(正直いって)少なからずある。社会的地位が上がるにつれて「バカヤロー、ふざけんな!」と怒鳴りつけられることも少なくなるからだろうか。それなりのクルマに乗る以上、それに相応しい人格も持ち合わせていなければ…と、自分への戒めとして考えるようになった。20代の方々と頻繁に接するようになり、自分が知らず知らずうちに「老害」になっていないか、あるいはこれから先、なってしまうのではないか?常に冷静になって見極めたいと思う。 [画像/TOYOTA,Honda,Adobe Stock・ライター&撮影/松村透]

ベテラン勢は決断の時!? 一念発起して膨大なコレクションを処分するべし!
ライフスタイル 2024.10.31

ベテラン勢は決断の時!? 一念発起して膨大なコレクションを処分するべし!

年に数回「コレクションの一部を引き取ってほしいんだけど・・・」と相談を受けるのは筆者だけだろうか。 気持ちが分かるだけに引き取りたいのはヤマヤマだが・・・実はこちらも断捨離のまっ最中。ここでふたたびコレクションが増えたら・・・家族に何をいわれるか分かったものではない。 そうこうしているうちに、なんだかんだで今年も残り2ヶ月となってしまった。そろそろ忘年会シーズンに突入だ。そして、年末の大掃除のことも考えなくてはならない時期でもある。 そこで今回は「ベテランコレクターは決断の時!? 一念発起して膨大なコレクションを処分するべし!」と題してまとめてみた。 言わずもがなだと思うが、自他ともに認めるコレクターであれば、遅かれ早かれ決断しなければならないときが「必ず」訪れる。迷っているベテランコレクターの背中を押すきっかけになれば幸いだ。 ■寒い&暑い時期が来る前に覚悟を決める  コレクションの多くは屋根裏部屋や押し入れ、倉庫など、空調設備が整っていないところに保管されていることが多い。それはつまり「暑いか、寒いか、暗いか。はたまた埃っぽいか」。そのいずれか(いずれにも)該当すると思われる。 筆者自身も経験があるのだが、暑くもなく、寒くもない気候のいい時期にコレクションを整理しないと、汗だく(または凍えながら)片付けをした記憶がフラッシュバックして、次に行うときにさらに腰が重くなる。2月に入るとスギ花粉に悩まされる人も多いだろうから、今の時期がベストかもしれない。 ■ヤフオクやメルカリに出品する  コレクションの放出先として王道中の王道といえるのがネットオークション、主にヤフオクやメルカリに出品することだろう。多くのクルマ好きのセーフティーネット、そして駆け込み寺となっているのは知ってのとおりだ。 落札者とのやり取りや梱包および発送といった手間は掛かるが、思いがけず高値で落札されることもあり、苦労に見合う価値はあると思う。時間的な余裕があり、手間を惜しまないマメさがあるのであれば膨大なコレクションを資産に変えるもっとも有効な手段であることは確かだ。  ■友人や知人に代行して出品もらう  膨大なコレクションをどうにか処分したいけれど、ちょっと小遣い稼ぎもしたい。でもフリマは面倒。しかしヤフオクやメルカリに出品する方法が分からない・・・という人もいるだろう。それならば、パソコンやスマートフォンの操作に強い友人に代理出品してもらうという手もある。もちろん多少の謝礼を渡すことをお忘れなく。 そして、せめて落札後の梱包や発送くらいは自分でやろう(もしも、すべてを丸投げするなら、その分の謝礼も加算して渡したいところだ)。 ■フリマに出店してみる  1度にコレクションを処分するのは難しいかもしれないが、フリマに出店してみるのもありだ。梱包や発送の手間が省けて、ちょっとした小遣い稼ぎにもなる。「こんなの売れるのかな・・・」と思って出品したものが実は掘り出しもので買い手にめちゃくちゃ喜ばれたり、逆に秘蔵コレクションだと思っていた自慢の逸品が最後まで売れ残ったりするから不思議だ。 「これで一儲けしよう」と気負わなければゆるく楽しめるのでおすすめだ。ひとつ気をつけたいのは、他の出品者のモノを買わないこと。せっかくコレクションを減らしに来ているのにこれでは本末転倒だし(笑)。 ■コレクター気質の友人や知人に譲る ヤフオクやメルカリなどのネットオークションに出品してもいいのだが、同じ趣味を持つ友人や知人に譲るという方法も有効ではないだろうか。無償で譲るか多少のイロをつけるかは状況によるだろうが、相手も喜んでくれるに違いない(喜んでくれると思われるコレクションを譲る必要がありそうだ)。 ここぞとばかりにゴミ同然の不要品を紛れ込ませて押しつける人がいるが、それは御法度。このとき、誰が見ても不要なものを渡さないように心掛けたい。 ■手元に残すコレクションは5点以内  すべてのコレクションを放出するのはあまりにも忍びない。そこで、文字どおり「墓場まで持っていきたいコレクション」だけを残して、あとは処分するという作戦だ。ただし、5点以内など、厳格なルールを決めた方がいい。10点まで増やしてやってしまうとキリがないからだ。あれもこれもとなって結局絞りきれなくなってしまいかねない。 さらに、うっすらお気づきだと思うが、中途半端に残すとふたたびコレクションが増えていくことは間違いない。これは断言できる。自ら蒐集欲を完膚なきまでになくすことがそもそもの目的なのだから。 「ギリギリのギリ」までコレクションを減らし、厳選に厳選を重ねて3〜5点くらいにする。そして、これ以上増やさない。あれほど心血を注いだコレクションの大半を手放したショックでしばらくはかなり辛いと思うが、少しずつ慣れてくる(はずだ)。時間が解決してくれるのは失恋と同じ(はず)だ。 ■まとめ:一気に処分しようとするから辛いのよ 膨大なコレクションを一気にまとめて処分しようとしても1日で終わることはほぼないだろう。もしあるとしたら、全コレクションを友人知人にまとめて引き取ってもらうか、住まいがある市区町村のゴミ集積場に持ち込み、「ゴミとして」一気に処分してもらう方法くらいしかない。 処分すると決めた以上、早くすっきりさせたいと思う気持ちは分からなくもないが、段階的にコレクションを減らしていくことで、せっかくの貴重なアイテムを投げ売りせずに済むかもしれない。 いずれにしても、押し入れや倉庫の奥で眠っていたコレクションを、いまこの瞬間も血眼になって探している人が日本、あるいは世界のどこかに必ずいることを気に留めてみてほしい。捨てれば単なるゴミだが、しかるべきコレクターのところに嫁げば、立派な資産であり、資料やコレクションとなりうるのだから。 [ライター・撮影/松村透]

終わりのはじまり!? オーナーズクラブが空中分解する5つの前兆とは
ライフスタイル 2024.10.31

終わりのはじまり!? オーナーズクラブが空中分解する5つの前兆とは

これまで、幾多のオーナーズクラブが生まれては消えることを繰り返してきた。そしてこの瞬間も「現在進行形」であり、10年後も、下手をしたら50年経ってもそれほど変わらないのかもしれない。 よくよく考えてみれば、人間が2人以上集まれば揉めごとが起こらないわけがない。共通のキーワードは、多くの場合「クルマのみ」という、非常に希薄な関係ともいえる。気がつけば疎遠になっていたり、自然消滅ということも少なくない。何しろ「苗字は分かるけど名前は知らない」といった程度の関係だからだ。 よくいえば絶妙な、裏を返せば実に危うい人間関係で形成されているオーナーズクラブ。今回は「不穏な空気は終わりのはじまり!? オーナーズクラブが空中分解する5つの前兆とは?」と題して、その前兆を考察してみた。 ■1.メンバー全員が参加しているLINEグループの投稿が減る NTTドコモ モバイル社会研究所が2023年4月17日に発表した統計によると、スマホ・ケータイ所有者のうち、LINEの利用率が83.7%に達するという。しかも、10~60代で8~9割以上が利用しているとのことで、もはやライフラインに近い。LINEアプリをインストールしていない人を探すのが難しいくらいだ。 そうなると、仲間同士の連絡網もLINEを介して行うのがもっともスムーズだ。さらにメンバーのみが閲覧・投稿できる非公開グループを作成すれば、普段の他愛ないやり取りからイベント等の業務連絡まで済ませることができてしまう。オーナーズクラブ管理者としては必須ツールだろう。 こうして作られたメンバー限定のLINEグループ。付き合いだしたばかりのカップルのように、クラブ創設直後はメンバー同士のやり取りが止まらず、日常生活が差し支えるほど(笑)。しかし、急速に熱せられたものは冷めるのも早いのが世の常。ある時期を境に倦怠期となり、気づけば1週間に数件。便りがないのは元気な証拠だとはいうけれど・・・。 ■2.内部分裂して別のグループが出来上がったうわさがたつ 本家LINEグループが妙に「過疎ってきている」場合、別のLINEグループが秘密裏に立ち上がり、そちらの方が盛り上がっている可能性もありうる。これこそが内部分裂、すなわち「空中分解」の初期段階ともいえるかもしれない。もちろん、メンバー同士で気の合う仲間同士が個別にLINEグループを作成し、よりフランクなやり取りをしている場合も大いにありうるだろう。 それくらいで収まれば何の問題もないのだが、メンバーの誰かが「本家のLINEグループがつまらないから」とか「いつも仕切る奴がいてうざい」などと愚痴りはじめたときは要注意だ。同じように思うメンバーが他にもいて、ヒミツのLINEグループになだれ込んでくる。そしていつしか、その噂は本家LINEグループでも話題になり・・・この時点で空中分解がかなり進行していると思っていいだろう。 ■3.リーダーの暴走 リーダーである本人にしてみれば「クラブの存続と発展のため」に身を粉にして頑張っているつもりかもしれない。しかし端から見れば単なるスタンドプレイ、つまり暴走しているとしか映らないこともある。人の話に耳をかたむけない、アドバイスを無視する、独断で決めてしまう。反対派をすみに追いやる。こうなると「裸の王様」そして「空中分解」の道へまっしぐらだ。 クラブ内の内部分裂が深刻化し、事実上「リーダー派」と「反リーダー派」に分裂してしまう。この時点で双方の関係修復はかなり困難な段階となり、定例MTGや忘新年会など「可能な限りメンバーは参加が好ましい」集まりが成立しなくなる。 ■4.自分の商売を持ち込む 参加しているクラブにその道のプロ(整備士やコーティングショップ経営者など)が参加していると、お友達価格で請け負ってくれたりと、かゆいところに手が届き、何かと頼りになることがある。相手も商売だし、このくらいの距離感で収まれば何の問題もない"Win-Win"な関係となりうる。 問題は「メンバーのクルマの整備は●●、コーティングは■■」といった具合に、なかば強制的に預けざるを得ない決まりができたときだ。メンバーそれぞれに付き合いやネットワークがあるだろう。その選択肢が奪われることは得策ではないといいきれる。しかし、これが分からないというべきか、自分の都合(商売)を優先してしまう人がいるのだから、困ったものである。 ■5.メンバー同士の男女関係のもつれ いわゆる修復不可能な遺恨を残す典型的な例が「メンバー同士の男女関係」だ。女性オーナーが増えきているとはいえ、クルマの趣味の世界はまだまだ男性の比率が高い。男性メンバー(さらには独身)ばかりの集まりのなかに、若い女性メンバーが加入してきたら・・・。「自分にもワンチャンあるかも」と期待しない方が無理というものだ。 こうしてメンバーの多くが、新入りの若い女性メンバーに対してアプローチを試みていたある日のこと、メンバーのひとりと女性メンバーが密会しているという噂が流れる。噂が噂を呼び、もはや犯人探し状態と化したすえ、女性メンバーに手を出したのが既婚者であるメンバーだと判明する。怒りが頂点に達したほかの男性メンバーたちは、そのまま勢いでクラブを脱退。こうして空中分解の悲劇が繰り返される。 ■まとめ:あえてどのクラブに入らないという選択肢も 同じクルマに憧れ、オーナーとなった者同士、思うところが一緒である以上、話があうのは当然のことかもしれない。しかし、冒頭にも記したとおり共通のキーワードは多くの場合「クルマのみ」という、非常に希薄な関係だからだ。関係がより親密になり、深入りするからこそ、あつれきが生まれることだってある。ならば無理に深入りせず、「苗字は知っているけどフルネームは分からない」くらいの距離感がいいのかもしれない。 繰り返しになるが、人が集まる以上、衝突は避けられない。揉めごとを避けたいのであれば、あえてクラブに入らないという選択肢もあるように思う。団体に属さず、気の合う人と個別に付き合うことで得られることもあるはずだ。 [画像・Mercedes-Benz,Adobestock ライター・松村透]

「趣味車が変われば人間関係もリセットされる…かもしれない」という話
ライフスタイル 2024.09.28

「趣味車が変われば人間関係もリセットされる…かもしれない」という話

新しいクルマへと乗り換える。新車であればボディカラーやオプションなども、予算が許す限り自分好みに仕立てることが可能だ。 いざ納車されたら、安全装備やハードウェアの進化など、最新モデルならではの劇的なアップデートに驚き、戸惑うかもしれない。 これに加えて、新型車のメーターパネルを占める面積の多くが液晶パネルになった。スピードメーターやタコメーターの針もデジタル表示だ。さらに、ステアリングにあるボタンひとつで表示パターンが切り替えられるという。10年後、あるいは20年後、液晶モニターが壊れて部品が製廃だとしたらどうなるんだろうと懸念しているのは筆者だけだろうか…。 また中古車であれば、探しに探して、ついに理想の1台が見つかったときの高揚感は何ものにも代えがたい。たまたま見つけたのが深夜で、当然ながら掲載店は営業時間外。「朝イチで連絡するにしても、その前に他の人に買われてしまわないか」と、浮き足だって夜も寝られないほどだ。 ■長年一緒に暮らした愛車から乗り換えるとなれば話は違ってくる 翻って、10年または20年、あるいはそれ以上、一緒に暮らした愛車から乗り換えるとなれば話は違ってくる。すっかり馴染んだ「愛車」だけに、多くの場合、できるなら手元に置いておきたいというのが本音ではないだろうか。 もし、いま現在「一大決心をして長年一緒に暮らした愛車を手放そうか迷っている段階」だとしたら…よくよく考えてからの方がいいかもしれない。これまで積み上げてきたありとあらゆることがリセットされる可能性があるからだ。これが趣味車であればなおさらだ。 ■愛車に関するノウハウが(ほぼ)リセットされる 例えば、スカイラインGT-R(R32)からスカイラインGT-R(R34)に乗り換えたとしよう。この2台のエンジンの形式は同じだし、それぞれ「第2世代GT-R」というカテゴリーに属している以上、ある程度はこれまでのノウハウが活かせる可能性がある。しかし、仮にR32GT-Rからポルシェ911GT3(991型)に乗り換えたとしたら…。これはもうまったく別枠のクルマだ。 クルマそのものの乗り方や、想定されるトラブルのウィークポイントなど、これまで積み上げてきたありとあらゆるノウハウがいったん「リセット」される。 もしも、911GT3が人生初の左ハンドル仕様だとしたら、左ハンドルの運転から覚える必要がある。たいていはすぐに慣れるとはいえ、若葉マークの頃を思い出すほど緊張しても不思議ではない。 これに加えてMT車だった場合、右手でシフトチェンジする必要がある。さらに交差点で右折するときも思いのほか苦労するかもしれない。この経験を新鮮と感じられるか否か…。慣れるまで時間が掛かったり、いつまで経っても違和感が消えず、せっかく手に入れた愛車を運転すること自体がストレスになりかねない。 ■人間関係もリセットされる(かもしれない) クルマが変われば人間関係も変わる。スカイラインGT-Rをこよなく愛する仲間と、ポルシェ911にシンパシーを抱く人たち。それぞれに好みのクルマが異なる分、話題がかみ合わない。これに加えてクルマ+周辺の話題も異なる。そして何より、オーナー像も変わってくるに違いない。 かといって、もともとのグループに戻ろうとしても、すでに「見えない壁」がある。スカイラインGT-Rのツーリングに911GT3で参加したとして、1度くらいなら大目に見てくれるだろうが、2回、3回と続くうちにお互いに気まずい雰囲気になる可能性がある。 このように、まったくの別カテゴリーのクルマに乗り換えるとなれば、これまで積み上げてきた人間関係をもう1度再構築する可能性が高いことを認識しておいた方がいいかもしれない。 ■そして、主治医との関係もリセットされる クルマが変われば当然ながら主治医も変わる。困ったときは夜遅くでもLINEで連絡できたり、出先で故障したときはわざわざキャリアカーで迎えに来てくれたり。たまに主治医の工場に足を運んで、コーヒーを飲みながら他愛ない話をしたり…。そんな「ざっくばらんな関係」はゆっくりと時間を掛けて醸成させるものだ。 新たに知り合った主治医は、その界隈ではよく知られた「名医」だけれど、どうもソリが合わない。話していて気を遣う…。そういった微妙な距離感は相手にも伝わる。お客だからひとまず愛車の面倒を見てくれるが、できれば他に行ってくれないかな…と密かに思われているかもしれない。もしそうなってしまっては悲劇だ。もっと気の合う主治医がいないものかと密かに動いてみたりするが、主治医同士の横(水面下)のつながりで筒抜けということもありえるので、慎重に行動すべきだと思う。 ■まとめ:すべてをいちから再構築する気力があるかが問われる まったく別ジャンルの趣味車に乗り換えたら…これまで積み上げてきたノウハウや人間関係をすべて断ち切るくらいの覚悟で、新たなコミュニティを創りあげる。40代よりは50代、50代よりは60代、60代よりは70代と、年齢を重ねるごとにそのハードルが高くなっていく。首尾良く継続できたら、それはラッキーくらいに思っておいた方がいいかもしれない。 新たなコミュニティで、自分の子どもか、下手をすると孫くらいの年齢のクルマ好きから「そんなことも知らないんスか?」と突っ込まれ、屈辱を味わう可能性だってある。 とはいえ、そこで相手に噛みついた時点でアウトだ。結果として新たなコミュニティに馴染めず、孤立していくようになるとさすがに辛い。そしてはたと気づくのだ。「やっぱり売らなきゃよかった」と。しかし、長い年月をともにしてきた愛車は戻ってこない。昔の仲間とも疎遠になってしまった。気がつくと帰る場所がない。そのときに気づいても遅いのだ。 学生時代の友人のように気の置けない仲間との関係、頼れる主治医、そしてガレージにあるだけで気持ちが満たされる愛車の存在…。いずれも長い年月を掛けて少しずつ積み上げてきた歴史そのものだ。もし、いま、愛車(趣味車)を手放してでも乗り換えたいクルマあるとしたら…。 そして「新たな愛車(趣味車)を迎えることで得られるもの < 愛車(趣味車)を手放すことで失うもの」の公式が成り立つとしたら、よくよく考えた方がいいかもしれない。リセットボタンを押してしまってからでは遅いのだ。 [画像:日産,PORSCHE,Adobe Stock・ライター/松村透]

一生モノはありえない!? 長年所有した「愛車の卒業」について考えてみた
ライフスタイル 2024.08.31

一生モノはありえない!? 長年所有した「愛車の卒業」について考えてみた

さまざまなオーナーインタビューを経験してきて思うのは「このクルマは一生モノ」といい切るオーナーが本当に多いことだ。仕事柄、たまたま熱量の高いオーナーばかりを取材しているだけで、実際には少数派なんだと思う。 ましてや、いまや残価設定ローン、サブスクリプションでクルマを所有する時代だ。期間が満了すれば新しいクルマに乗り換える。クルマではないが、筆者が普段使っているiPhoneとMacintoshのノートパソコンがこれだ。毎日使うものだし、いざというときに故障されては困る。この原稿を書くために使っているMacintoshだって、つい2日前に新しいモデルに換えたばかりだ。 翻って、一生モノとはいうけれど、悲しいかな愛車を墓場まで持って行くことはできない。骨壺にお骨といっしょに愛車に使っていたキーホルダーも収めてもらうとか、せいぜいそれくらいだ。 いつか必ず別れる日が訪れるという、誰もが逃れられない事実に想いを馳せつつ、長年所有した「愛車の卒業」について考えてみた。 ■人は1日に最大で3万5000回の決断を下している(らしい) 確率100%、誰にでも確実に訪れるできごとってそうそうあるものではない。 ケンブリッジ大学のバーバラ・サハキアン教授の研究によると、人は1日に最大で3万5000回の決断を下しているのだという。 朝、目が覚める。まず最初に何をするか?まだ眠いので2度寝するという選択肢もあるだろう。休日の2度寝はまさに至福だ。そういったさまざまな決断を下していくうちに、なんだかんだで1日あたり数万回というカウントになっていく。 万歩計(いまならApple Watchのようなウェアラブル端末か?)をつけて歩いてみると、いつの間にかに1万歩くらいの歩数を稼いでしまうこともあるわけだし、「1日で最大で3万5000回」という数字もあながち間違っていないように思えてくる。 ■誰もがいつか愛車と別れる日が必ず訪れる そして、確率100%、誰にでも確実に訪れるできごとのひとつに「死」がある。筆者自身はもちろんのこと、この記事に読んでくださっているそこの貴方も、確実にその瞬間に向かって突き進んでいる。 さらに「クルマを所有している人」という条件付きにはなるが「いつか愛車と別れる日が必ず訪れる」ことも事実だ。他に欲しいクルマが見つかった、家庭環境の変化、運転免許を返納してクルマに乗ることを止めるから、故障してしまい、膨大な修理費用が掛かることが判明したから、事故を起こして廃車になってしまったから…。理由はさまざまだろう。 筆者自身も、一生モノと決めて所有している愛車がある。このクルマとも、遅かれ早かれ別れる日が訪れるのは避けられない…なんてと書いてしまうとさすがに悲観的すぎる気がする。ならばいっそ「いつか手放すときまで、楽しめるだけ楽しんでおこう」と思考を切り替えた方が前向きでいいかもしれない。 ■一時の衝動や感情で「卒業」するべきではない 「いつか愛車と別れる日」の「いつ」を設定するかはオーナーの自由だが、さまざまな取材を通じてかなりの確率で失敗する例を挙げておく。 それは「なんとなく」とか「衝動的に」といった、後先考えずに、そのときの気分で愛車を手放す行為だ。 憧れのクルマが納車された当日は「フワフワした気分で、なんだか自分のクルマとは思えない」といった具合に、現実味がないほど有頂天になりがちだ。 憧れのクルマが愛車となり、ガレージや駐車場にあるのが日常となっていく。そのうち目が慣れてくる。そして冷静になるにつれ、少しずつアラが見えてくるようになる。ここで「まぁ、そんなもんさね」と割り切れるか、耐えられなくなるか。ここでふと思った。これって結婚生活に似ているかもしれない…。ただし、こちらは相手がいることなので、お互い様なのだろうけど。 そのうち、そこに「在る」のがあたりまえになってしまう。と同時にありがたみも薄れていく。「手に入れたときの感動なんてすっかり忘れてしまった」。こうなったら要注意だ。ふとしたときに魔が差してしまう。 不思議なもので、こういうときに限って「隣の芝生は青く」見えてしまうようなクルマが目の前に現れる。しかも、厄介なことに、いまの愛車を手放せばなんとか買えそうなところにあったりする。さらに、よせばいいのに商品車を観に行ってしまうのである。「見るだけ見るだけ」と自分にいいきかせながら。 この先の展開はおおよそ見当がつくだろう。一時の衝動や感情で「卒業」してしまい、やがてまた同じように魔が差して乗り換えてしまう。こうして同じことを繰り返す。浮気性は不治の病なのだ。 ■「○○○が起こったら卒業」と決めておくという手もある なかには「手放すタイミングを逸し、惰性で所有している」といったオーナーもいる。そろそろ卒業してもいいかなと思いつつ、手放すほど気持ちは冷めていないし、他に欲しいクルマも見つからない。さらに、長年連れ添った愛車を手放したあと、自分がどういった心境になるのか分からないといった怖さも秘めているようだ(と同時に、どういった心境になるのか知りたいといった矛盾を抱えているケースもあった)。 もしもいま、卒業するタイミングを探しているとしたら…、何らかの目標を決め、それが達せられたら決断するというのはどうだろうか。例えば、愛読してきた雑誌の表紙を飾ったら、主治医が引退したら、子どもが免許を取得して、クルマの運転に慣れてきたら…。 自分自身が納得できるものであればなんでもいい。卒業するポイントを決めて、その日から来たるべきXデーに向けて心の準備をしておくのだ。見事にその目標が達せられたらめでたく卒業だし、それで未練があると感じたらもう少し結論を先延ばしにしたっていい。大切なことは、どう折り合いをつけるか?あとは尾を引かないようにすることではないかと思う。 ■まとめ:自らの手で葬るというケースも・・・ これはオーナーにしか許されないことだが…。他の人の手に渡るくらいなら、いっそこの世から愛車の存在を消してしまうという方法もある。つまり「廃車」にしてしまうのだ。 この世から完全に愛車を消去してしまえば、「今ごろどうしているのか…」などと案ずることもなくなる。割り切るにはもっとも確実な方法かもしれない。ただ、1台の貴重なクルマがこの世から姿を消してしまう(しかもコンディションもそれなりに良いはずだ)としたら、あまりにも悲しい。 クルマをどう処分しようとオーナーの自由だ!といわれたたらそれまでだが、ある意味では究極のエゴ、自己中かもしれない。 あくまでも個人的な意見だが、コンディションが良い個体であれば家族に譲るなり、どこかのエンスージアストに託してもいい。動かすのが困難であれば、ドナー、つまりは部品取り車として他の誰かの愛車が延命できるようにしてみてもいいのではないかと思えるのだ。 [撮影&ライター・松村透]  

「愛車遍歴の1台が左ハンドル+MTっていいかも」という話
ライフスタイル 2024.08.29

「愛車遍歴の1台が左ハンドル+MTっていいかも」という話

筆者だけの思い込みかもしれないが、ハンドルの位置が右から左になるだけでずいぶんと景色が変わるものだと驚くことがある。 さらにMTともなれば、右ハンドルのときは左手で操作していたものが、左ハンドルになると右手に変わる。たったそれだけのことでも、運転する行為そのものが新鮮に思えてくるから不思議だ。 右ハンドル+MT車の選択肢が減りつつあるなか(それでもシビックRSのようにMTのみのモデルがいまだに発売されたりする)、左ハンドル+MT車ともなればもはや絶滅危惧種だ。 それなら、乗れるうちに乗っておいてもいいかも…。今回はそんな話だ。 ■初めて運転した左ハンドル+MT車の思い出 人生初の左ハンドル+MT車はというと、当時、最新モデルとして販売されていた993型のポルシェ911だ。当時ハタチ。なんでそんなクルマに乗れるんだ!と突っ込まれそうなので先に白状しておくと、当時の正規ディーラーに、友人と連れ立って「運転させてください」と乗り込んだんである。いま考えると、若葉マークがようやく外れたばかりの若者によく試乗させてくれたと思う。 「準備するので中で待っててください」と、ショールームに案内され、色っぽい美人のお姉さんが出してくれたディーラー物(?)のコーヒーを味わっていると、メカニック氏が「準備できました。どうぞ!」と、ポルシェ911をショールームの前に横付けしてくれていた。 自分から乗りたいといってショールームまで来てみたものの、クラッチミートが難しいとさんざん聞かされてきた911、果たして自分に運転できるのか!? ここまで来たら後には引けない。 覚悟を決めて運転席に乗り込み、シートポジションを調整する。左手でキーを捻り、背後で空冷エンジンがウォン!!と目覚める。クラッチペダルを踏み、おそるおそる右手でギアを1速に入れた。なんじゃこのガッシリしたシフトノブは!サイドブレーキを下ろし、いろいろクラッチミート。911はアイドリングのままクラッチミートするんだっけ…。するするっと…正しくはおそるおそる左足を床から離す。すると…動いた!エンストせずに発進できた! 2,30分くらいだったか、夢中で911を走らせた。実はこのとき、実はいろいろあって、結果としてホロ苦い思い出となってしまったのだけど…。 ■30万円のゴルフ2 GTIを買い逃した話 都内でウィンドウフィルムを施工するアルバイトをしていたおよそ30年前、勤め先の専務から「ゴルフ2 GTIのMTの売り物があるんだけど、買わない?3ドアの左ハンドル。30万円でどう?」と話を持ち掛けられた。 いまなら飛びつきたいくらいの話だけど、当時はまだ「ゴルフはダサい(すいません)」というイメージしかなかった。どうもハッチバックのクルマが好きになれなかったし、この時点でゴルフを運転したことがなかったことも関係していたように思う。このときハタチ。まだまだ頭でっかちだった時代だ。 アルバイト先であるフィルムの施工場に入庫してくるのは、メルセデス・ベンツやアウディ、当時流行りのボルボのエステート、たまにポルシェやジャガーといった高級車ばかり(在籍中、なぜかゴルフのフィルム施工は機会がなかった)。そんなわけで、仕事とはいえ高級車に触れる日々。だからこそ、余計にゴルフがチープに思えたのかもしれない。…というわけで、30万円のゴルフ2 GTIを手にすることはなかった。 それからおよそ4年後、就職した会社の社長が発売されたばかりのゴルフ4 GTI(MT)の新車を手に入れ、打ち合わせに同行した際には運転させもらった。このとき、初めて実際にゴルフを運転したことでようやくその魅力に気づいた。その後、ゴルフ4ワゴンを手に入れて以来、現在のゴルフ トゥーランまで都合6台のゴルフに乗ることになろうとは。 ■身近なところに左ハンドル+MT車があった! これまで、仕事を通じてさまざまな左ハンドル+MT車を運転する機会に恵まれた。ちなみに、現在、趣味車として所有しているクルマも左ハンドル+MT車だ。ふと思うのは、若いときのホロ苦い経験を埋め合わせたかったのかもしれない。 いまや、プライベートでもたびたびお邪魔している、東京都青梅市にある「Garage, Café and BAR monocoque/ガレージ・カフェ&バー モノコック」の駐車場に1台のハッチバックモデルが目に留まった。 店舗を訪れた人であれば「あぁ。あのクルマね」となるかもしれない。 2011年式 ルノー トゥインゴ ゴルディーニ ルノー・スポール。まさに「左ハンドル+MT車」そのものだ。 同店のマスターであるRYOさんに伺ったところ、走行距離は約10万キロ、価格はASKとのことだが、100万円前後(車検2年付き)を考えているらしい。 内装はというと、エアバッグ付きの純正ステアリングの代わりにOMP製のディープコーンステアリングが、運転席にはスパルコ製のフルバケットシートが装着される他、リアシートやカーペット類が取り外されており、実にスパルタンだ。また、タコメーターの隣にはPIVOT製のdigital monitorが装着され、水温・エンジンの回転数・電圧を表示することができる。 アラフィフ世代以上のクルマ好きにとっては、どこかで見覚えのある仕立てではないだろうか。かつて、スターレットやマーチ、シビック、CR-Xなど、国産ホットハッチで愛車をこんな感じに仕上げて峠道を攻めたり、朝から晩まで(翌日の明け方まで?)乗り回していた人も少なくないはずだ。 折からの旧車人気の影響を受けて、いずれのクルマは信じられないような価格帯になってしまった。オリジナルが是とされ、おいそれとカリカリにチューニングができない雰囲気ができつつある。そもそも、いじりたくても部品そのものがレアになり、安価に仕上げること自体が夢物語になってしまった感がある。 その代わり…ひと昔の輸入車が手頃な価格で手に入るようになってきた。その代わり、かつて高嶺の花だった「ガイシャ」が手頃な価格帯となり、一時期は「タダ同然で引き取ってきた」国産旧車がとんでもない相場で取り引きされる時代となった。 であれば、比較的手が届きやすい輸入車、しかも左ハンドル+MT車がその枠に含まれるのなら…これは楽しんだ者勝ちだと思う。特に、若い世代の方たちにとっては「左ハンドル+MT車+内燃機関のクルマを安価で楽しめる」またとない機会かもしれない。 ●2011年式 ルノー トゥインゴ ゴルディーニ ルノー・スポール ・価格:ASK(100万円前後を予定)・走行距離:約10万キロ・左ハンドル/5速MT・車検2年付き・BS Speedline ホイール・Pro Racing サブコン・BC Racing 車高調・PIVOT digital monitor・ブレーキ冷却ダクト・ボディ補強・アーシング・DIXCEL 特注スリットローター/Zタイプ ブレーキパッド・実測160馬力 ●問い合わせ先:クルマ&バイク好きのオアシス「Garage, Café and BAR monocoque/ガレージ・カフェ&バー モノコック」 ・Facebook:https://www.facebook.com/monocoquecafebar・Instagram:https://www.instagram.com/monocoque.cafebar/・営業時間:11:00〜23:00・定休日:不定休(facebook、Instagramに情報あり)・住所:東京都青梅市畑中1-126-1・TEL:0428-84-0644 ■まとめ:愛車遍歴の1台が左ハンドル+MTっていいかも 新車で買える左ハンドル+MTというと、基本的には輸入車、または逆輸入車だ。正規ディーラーで販売されているクルマで見ていくと、アバルトF595(448万円)あたりが現実的なところだが、それでもコミコミで500万円コースだ。正直いって決して安いクルマとはいえない。 しかし、中古車であれば、それこそピンからキリまである。カーセンサーで調べてみたら、もっとも高価な左ハンドル+MT車は1996年式のフェラーリF512M(RKスペシャル)の1億5千512万円(!)。そういえばこのフェラーリ、某ミュージシャンの元愛車だった個体のはず。反対に、もっとも安いクルマは、2004年式フィアットパンダの33万2千円(いずれも支払総額)だった。 欧州車を中心に、コミコミ100万円以下で買える左ハンドル+MT車もそれなりに選べる。安く買える分、低年式や過走行の個体も含まれている。そこはある程度割り切って「壊れたら、その都度直していく」くらいの心持ちの方がいいかもしれない。 2024年の時点で、新車で購入できる左ハンドル+MT車が限られている以上、10年後にはいまよりも確実に選択肢が限られていることは間違いない。交差点の右折が大変(特に対向車の右折待ちがいる場合)、駐車場などの料金所が左ハンドルに対応していない等、不便に感じることも少なくない。 しかし、左ハンドル+MT車には、それを補って余りある魅力があると個人的には感じている。右ハンドル+MT車も充分に楽しいけれど、ちょっと変化が欲しいと感じたら、左ハンドル+MT車を選択肢に入れてみてほしい。初めてMT車を運転したときのような、新鮮な感覚、そしてワクワクする気持ちが蘇ってくることは間違いない。 そして、行きつけのカフェに立ち寄って居合わせた人たちとクルマ談義を楽しむ…。きっと充実した時間を過ごせるはずだ。 [画像・Porsche、Volkswagen/撮影&ライター・松村透]

「不本意にも手放さざるを得ない愛車との別れ」について考えてみた
ライフスタイル 2024.08.01

「不本意にも手放さざるを得ない愛車との別れ」について考えてみた

生きていると「運命としか思えない」できごとに遭遇することがある。単なる偶然かもしれないし、本当に運命だったのかもしれない。 日本語に訳すと「幸運は用意された心のみに宿る」と説いたのは、フランスの細菌学者であるルイ・パスツールだった。 起こるべくして起こる。これこそ運命だといえる。 しかし「起こるべくして起こる」ことが幸運なエピソードだとは限らない。自分の意思とは無関係に不本意な運命に出くわしてしまうことだって(少なからず)ある。 ■誰にでも「不本意な運命が起こるかもしれない」という事実 年間、100人単位でオーナーインタビューを行っていると、良い方と悪い方、それぞれの「起こるべくして起こった」エピソードに接することになる。 1度は金銭的な事情で手放し、必死に働いて見事にカムバックしたオーナー、コツコツ仕上げてきた愛車がもらい事故で廃車になってしまったオーナー、愛娘の中学受験の費用を捻出するために愛車を手放したオーナー。起業するためあえて退路を断つべく、相棒ともいえる愛車を手放したオーナー。そして高齢のため、クラシックカーの運転が厳しくなり、最新モデルに乗り替えるべく断腸の思いで手放したオーナー…。 このように、ざっと挙げただけでもこれだけある。まさに、人それぞれにエピソードがあることに気づかされる。 そして、改めて振り返ってみると、不本意な理由で愛車を手放した経験があるオーナーが思った以上に多かった。特に多かったのが結婚や出産を機に泣く泣く…というパターンだったように思う。なかにはこの段階でクルマ趣味を諦めたという方もいた。 そう考えてみると、20年、30年、あるいはそれ以上、1台のクルマととことん付き合っているオーナーの存在が奇跡かもしれないとすら思えてくる。 ■親友が所有していたマツダ RX-7の話 もう数十年前のことだが、学生時代の親友がマツダ RX-7(FC3S型)で気になる中古車があるから一緒に観に行って欲しいと頼まれた。最寄り駅から徒歩で20分くらい掛けてバイパス沿いにある小さな中古車販売店に2人で足を運んだ記憶がある。 ずっと欲しいと思っていたクルマ(FC3Sの限定モデル)が手頃な価格で売り出されていたこともあり、親友はその場で即決。確か納車のときも一緒に行ったと思う。平成1ケタ、1990年代前半といえば、スポーツ系モデルのチューニングが盛りあがっていた時期だ。親友もご多分に漏れず、手に入れたRX-7をチューニングしていったことはいうまでもない。 それから1年ほど経ったある日、深夜の湾岸線でエンジンブローを起こしたのを機に、その後はゼロヨンの世界へと傾倒していく。やがて、いまでは完全に絶滅した街道ゼロヨンにも参戦するようになった。その頃には当時としては珍しい13B型の2ローターエンジンにブリッジポート加工が施され、親友のRX-7は独得のアイドリング音を轟かせていた。いまでも「ドッドッドッ」という心臓の鼓動のように一定のリズムで刻むアイドリング音、そして走り去る際の残り香のような濃い生ガスの匂い(※臭いではない)を思い出すことがある。 まさに親友のこだわりと熱量と給料がこれでもかと注がれたRX-7、あるとき再びエンジンブロー。今度ばかりは直そうにも資金が捻出できない。親友としては不本意だったと思うが、結局、最後はそのRX-7も手放した。 それから数年後。たまたま2人でいるとき、偶然このRX-7と再会することになった。親友が青春と当時の給与をほぼすべてつぎ込んだRX-7は別のオーナーが所有し、まったく別の姿になっていた。それでも、そこかしこに当時装着していた部品が残されていたのでお互いすぐに分かった。 何とも複雑な心境ではあったが、せっかくだからということで親友と元愛車であるRX-7とのツーショット写真を撮った。このときのデータはいまでも手元に残されているが、撮影しておいてよかったと思う。結果として、このときがRX-7との最後の対面となってしまったからだ。その後、このRX-7がどうなったのかは分からない。 ■「いっそこの世から葬ってしまった方が引きずらなくて済む」という選択 壊れて修理に高額な費用が掛かることが分かり、「知らない誰かのところに嫁いでいじくり倒されるくらいなら、いっそこの世から葬ってしまった方が引きずらなくて済む」という涙の決断を下した方もいた。 一部の方には反発を食らうかもしれないが、事あるたびに「あのクルマいまどうしているのかな」と思い悩むくらいなら、いっそスクラップ、廃車にしてしまおう。この方が気持ちに区切りがつけられる。終わりを見届けたことで(クルマには申し訳ないけれど)諦めがつくということなのだろう。 なかにはスクラップ場まで同行し、愛車との最後の別れを惜しんだという方もいる。ちなみにこのオーナー、せめてもの思い出として、2度と使うことはない愛車のキーを手元に残し、大切に保管しているそうだ。 ■「あえて愛車に深入りをしない」という接し方もある 取材した方のなかには「失ったときのショックが計り知れないから、あえて愛車に深入りしない」と考えているケースもあった。それはそれでありかもしれないと思った記憶がある。 よくよく話を伺っていくと「若い頃、憧れのクルマを手に入れて楽しんでいたある日、ふと浮気心が芽生えてしまい、別のクルマに乗り換えてしまった」のだという。いわゆる魔が差したというやつだ。 この先の展開はクルマ好きの方であればおおかた予想がつくだろう。 新たに迎え入れたクルマにはすぐに飽きてしまい、買い戻そうにも元愛車は売約済みで別のオーナーが所有しているという。結局、二束三文で売り飛ばすことになり、「つなぎのつもりで」手に入れたアシ車に乗り替えてからずるずると10年以上が経過…。現在の愛車にはそれほど想い入れがない分、飽きることもなければ、わざわざ手を加えようとも思わないそうだ。 ただ…、ときどきふと思い出したようにネットで検索して元愛車がどうなっているか調べてしまうのだという。どこかの誰かが所有しているのか、廃車になってしまったのか、それとも海外へと流れたのか…。しかし、いまだに手掛かりはつかめずにいるそうだ。 この呪縛から逃れるためには元愛車よりも惚れ込めるクルマを見つけるしかないのだが、こればかりは「運命の出会い」次第なのでジタバタしたところでどうなるものでもない。そんな堂々巡りを繰り返しているうちに「あえて愛車には深入りしない」という悟りに近い境地に達してしまったのだという。 ■まとめ:「不本意にも手放さざるを得ない愛車との別れ」は若いうちに経験すべき? 多くの辛い経験がそうであるように、最終的には時間が解決、あるいは忘れさせてくれるような気がする。時が経つにつれて美しい思い出へと補正されることもあるだろうし、リベンジするべく、奮起する時間的な余裕もある。 しかし、ある程度年齢を重ねてからの「不本意にも手放さざるを得ない愛車との別れ」は予想外にダメージが大きい。所有していた愛車との時間が長ければ長いほどダメージの度合いも大きくなる。それならば、いっそこの世から葬ってしまった方が…と思ってしまいたくなる気持ちも理解できる。 老いも若きも、遅かれ早かれいずれ愛車との別れの日が必ず訪れる。来るべき日が訪れてしまったとき、できることなら運命とやらに翻弄されるのではなく、自分の意思とタイミングでその日を迎えたいものだと思う。 [撮影/松村透、画像/Mazda,Mercedes-Benz、ライター/松村透]      

定年間近のクルマ好きの方から「定年後にポルシェ911を買いたい」と聞かれてマジレスした話
ライフスタイル 2024.07.02

定年間近のクルマ好きの方から「定年後にポルシェ911を買いたい」と聞かれてマジレスした話

企業に勤める方の定年退職の年齢は、60歳以上であれば各社ごとに任意に決定できるのだという。現実的には65歳で定年退職という流れが多いのだろうか。 私自身、自営業なので定年はない。気力と体力があれば90歳まで働いてもいいし、極論をいえば明日にでも定年してしまってもいいくらいだ(実際にはできないけれど)。 時短やワークライフバランスといったことが叫ばれて久しいが、実際にはいまだに夜遅くまで残業している方も少なくないはずだ。なかには残業代が稼げるから、遅くまで働くのは苦じゃないという方もいるだろう。こうして、家族のため、そして自分自身のため、文字どおり身を粉にして働いてきた方も多いと思う。 ■ポルシェ911が欲しいと語る仕事関係で知り合ったKさん(64歳) もうすぐ定年退職を迎え、これから先は少し時間に余裕ができる。生活に余裕があれば憧れの世界に足を踏み入れてもいいだろう。仕事関係で知り合ったKさん(64歳)と打ち合わせで顔を合わせたとき「時間に少し余裕ができるし、退職金を少し使わせてもらって憧れだったポルシェを買ってみたいんだけどどう思う?」と相談を受けた。 Kさんに「予算はいくらくらいですか?」と尋ねると「600万円くらいかな」とのこと。 予算が600万円ということは、キャッシュで新車のポルシェを買うのは厳しい。ただ、この600万円を頭金にして会社員であるうちにローンを組めば新車のポルシェが手に入るかもしれない。さすがに新車は高すぎるというのであれば、高年式の認定中古車という手もあるだろう。 以前からKさんからクルマ好きと伺っていたので、すでにモデル名を決めているかもしれないと思い「ポルシェのなかで、どのモデルはが欲しいんですか?」と尋ねてみた。すると「そりゃあキミ、911に決まってるじゃないか」とのこと。やはりそうか。多少なりともスーパーカーブームの洗礼を受けているだろうし、「ポルシェといえば911」という強烈な刷り込みを受け続けてきた世代でもある。 「ボクスターやケイマンはいかがですか?」とKさんに問うてみると「オレは911一択」といい切った。もはや打ち合わせはどこへやら。普段の取材(オーナーインタビューモード)みたいだなと思いつつ、Kさんにこれまでの愛車遍歴について伺ってみると…。「KP61型スターレットや、A70型スープラ、FD3S型RX-7などを経て、家族して子どもが産まれてからは日産ラルゴやエルグランド、トヨタ エスティマ」などを乗り継いできたということを初めて知った。 都内在住でさすがにセカンドカーは持つのは厳しく、家族のために事実上クルマの趣味を封印してきたのだという。現在は子どもたちも独立して手が離れ、Kさんご自身も定年間近。奧さんに「退職金を少し使わせてもらって憧れだったポルシェが欲しいんだけど」と、それとなく相談してみたところ「あなたが欲しいなら好きにすれば」といった具合に好意的な回答が得られたそうだ。最大の難関をクリアし、いよいよ本腰を入れて理想の911を探してみようと思っていたところなのだという。 ■ポルシェ911の認定中古車は1500万円〜という現実 ここでふと気づいた。Kさんはこれまで国産スポーツカー、そしてミニバンを乗り継いできている。つまり、1度も輸入車を所有したことがない。それならば少しでもリスクが低いと思われる認定中古車がいいのだろうか…と思い、スマホを取り出し、カーセンサーで調べてみた。 すると…600万円〜700万円の枠で911の認定中古車を調べてみたところ、なんと1台もヒットしない。上限を800万円に引き上げてみてようやく1台といったありさま。さらに、思い切ってリミッター(?)を解除してみると、ほぼ1000万円スタートだということが判明。そこから画面をスクロールしていくと…、事実上1500万円以下ではほとんど選択肢がないことを思い知らされた。これにはさすがのKさんもガックリ。 仮に600万円の予算をほぼすべて頭金としてつぎ込み、車両本体価格が約1500万円のポルシェ911カレラ(991.2)を手に入れるとしよう。60回ボーナス払いなし、均等払いの残価設定ローンで組んだとして、月々の支払いが約95,000円と算出された。 「残価設定ローンで組んでも毎月約10万かぁー」とKさん。どうやら勤めている企業を定年退職したあと、収入が減るのは避けられないようだ。すでに住宅ローンは完済しているというKさんだが、ため息をつくのも無理はない。虎の子の600万円を頭金に充て、さらに残価設定ローンで毎月約10万円。しかも60回で完済ではなく、5年後には残債分をどうするのか決断しなければならない。残債をさらにローンを組んで乗りつづけるか、新しいクルマに入れ替えるか、売却して残債をゼロにするか、そして一括返済するかの4択だ。 ■予算600万円で買えるポルシェ911といえば 気を取り直して600万円前後で買える911を探してみると、996型の上限と997型の最安値の個体がクロスする価格帯だということが分かってきた。 ここでKさんに「911のどのモデルが欲しいのですか?」と尋ねてみた。すると「本当はカレラ2のMT(964型)が欲しいんだけど、空冷911が手が届かない価格帯になっていることは何となく知っていた」という。「自分の買える範疇でいいので、人生において1度はポルシェ911に乗ってみたい」というのが本音だそうだ。 600万円の予算をすべてつぎこんで、997型であれば15年落ち前後、996型であればほぼ20年落ちのポルシェ911を手に入れることになる。購入後、整備費用の予算が0円ではあまりにも心もとない。仮にトラブルに見舞われなかったとしても、1点点検や車検時に「予防整備」としてさまざまな部品を交換することになる確率が高い。ましてや、ディーラーに整備や車検を依頼したら、天文学的な見積もり額にKさんが泡を吹きかねない。 ■結局、どうしたかというと・・・ つい1時間ほど前のハイテンションはどこへやら。すっかり意気消沈してしまったKさんから「どうすればいいと思う?」と、あまりにも直球過ぎる問いに、思わず言葉に詰まった。「買えばなんとかなりますヨ」なんて無責任なことはいえない。かといって「さすがに厳しいものがありますよね・・・」と、ここで引導を渡してしまうのもいかがなものか。 改めてKさんに問うた。「ボクスターやケイマンはアリですか?」と。するとKさん「いや、911に乗りたい!」と、ここだけはどうしても譲れないポイントらしい。 結局、どうしたかというと“911に乗りたいという意思は譲れないわけですし、「600万円(プラス整備費用の予備予算)で買える911」を選ぶか「600万円を頭金にして、残価設定ローンで認定中古車を買うか」。まずはKさんご自身でソロバンをはじいてみて、導きだした結論を奧さんに話して相談してみたらどうですか?”と伝えることにした。 いやー、これは厳しいですよと伝えるのは簡単だ。しかし「乗らないで後悔するより、乗ってみて後悔する」方が、少なくともKさんにとってシアワセな第二の人生が送れるのではないかと感じたからだ。 たとえ1年、もしくはわずか半年の所有期間であったとしても「ポルシェ911を所有できた」という事実は変わらない。売却するときに損をしてしまうかもしれないが、そのリスクを怖がっていたら永遠に欲しいクルマは手に入らない。かといって、ここから数年間貯金をして多少なりとも頭金を増やせたとしても、その分、いまよりは体力や身体能力が衰えているだろう。 せっかく念願のポルシェ911を手に入れたのに、体がついていかないとしたらそれこそ悲劇だ。さらに、長年勤めた企業を定年退職しているのだから、そもそもローンが通らない可能性も高い。 その後、Kさんから「ポルシェ911を買った」という連絡はない。SNSにもアップされている様子がないので、いまだに迷っているのだろうか。それとも奧さんが止めたのかもしれない。Kさんがいずれ運転免許を返納するとき「納得のいく終わりかた」になることを願うばかりだ。 *Kさんには許可をもらって記事にしています。 [画像・Porsche ライター・撮影/松村透]

そもそも「職場の上司や先輩よりイイクルマに乗るのは罪なのか?」という話
ライフスタイル 2024.06.25

そもそも「職場の上司や先輩よりイイクルマに乗るのは罪なのか?」という話

現代よりもはるかに年功序列が厳しかった昭和の時代。社長がクラウンであれば、管理職はマークIIに、そして平社員はカローラ乗るべき(またはそれぞれのクラスに属するモデル)といった暗黙のルールがあった。 会社のゴルフコンペに上司より高級なクルマに乗っていこうものなら非常識呼ばわりされ、その後もネチネチと嫌味をいわれた。 終身雇用かつ企業戦士が是とされた昭和の時代を生き抜き、無事に定年退職した父から聞いた話だ。この話を聞いたときはまだ学生だったので、その意味がきちんと理解できなかったように思う。 ■社長、ポルシェ911が欲しいんですけど・・・ やがて社会人になり、勤め先の社長の愛車はメルセデス・ベンツ190Eディーゼルターボだった。当時は「なんでベンツなのにディーゼルなの?」と聞かれることも多かったそうだ。 かつてウィンドウフィルムを施工するショップでアルバイトした際に、納引き(納車引き取り)で何度もメルセデス・ベンツを運転したが、ディーゼルエンジン仕様は1度もなかった。それだけに、とても新鮮だった記憶がある。 打ち合わせなどのお供で何度も社長の190Dを運転させてもらったが、バブル期に「小ベンツ」なんて揶揄されていたのが不思議なくらい心地良いクルマだった。 あるとき「キミは何のクルマが欲しいの?」と社長に尋ねられ、ついうっかり「ポルシェ911が欲しいです」と答えてしまった。自動車関連業の職場とはいえ、かつて父から聞かされた「平社員はカローラ(またはそのクラスに属するモデル)という暗黙のルール」が不意に蘇った。まずい。怒られるかな…。 すると社長は「それはいい!買いなよ!」と背中を押してきた。おいおい、いいのかよ。あとで知ったのだが、当時の勤め先の社長は自分よりも社員が「イイクルマ」に乗ることについてとても寛容な人だった。そして、その言葉を真に受けて、20代半ばで60回ローンを組んでナローポルシェを手に入れてしまった。 いまでこそ価格が高騰してしまったが、25年くらい前は国産スポーツカー並み(またはそれ以下)の価格で買えたのだった。先のことはともかく、とりあえず「買うだけなら何とかなる」時代だった。それがいまや…。とはいえ、月々のローンは5万円を超えたので、薄給の身には結構きつかったけれど。 昭和の時代の「平社員はカローラという暗黙のルール」なんてとうの昔に崩壊したと思いきや、令和6年となった2024年現在でも「ダメなものはダメ」らしい。つまり、一部の世界では根本的に何も変わっていないということだ。 ■どうしても欲しいなら完全プライベートで 勤め先の社長や上司が理解ある人であれば問題はないのだが、そうでない場合、あるいは業界の慣習的に許されないこともあると思う。電車通勤が可能な職場であれば「クルマは趣味」に徹することもできるだろう。しかし、クルマ通勤でなければ通えない場所に職場がある場合、「足車」が必要になってくる。 5万円で友人知人から譲り受けた10万キロオーバーの軽自動車でも何でもいい。そこから中古パーツを駆使して自分好みに仕上げたり、痛んだところを直していく過程も楽しかったりする。もともと安く買ったクルマだけに、趣味車では躊躇してしまうようなDIYも楽しめる。そして、気軽に手を加えられる点が何よりの魅力だ。 そして本命の趣味車だが、もし所有している事実を職場の人に知られたくないなら、SNSにアップするのは気をつけた方がいい。どこで誰が見ているか分からない。鍵アカウントは必須かもしれない。可能であればクルマ関連の投稿は避けた方が無難だ。面倒だけど、それくらい万全の態勢で臨まないとうっかり誰かに知られてしまうからだ。 とはいえ、現実の世界でも気を抜けない。出先でばったり職場の同僚や上司に会ってしまう可能性だってある。もはやこれはもう運の世界だが…。もしばったり遭遇したとき、例えば「○○○くん、ベンツ乗ってんの?」と聞かれ、咄嗟に「いえいえこれは親のクルマを借りてます」と返せるよう、日頃から頭のなかでシミュレートしておいてもいいかもしれない。 ■とはいえ、若いときにしか乗れないクルマがある なかには「そこまでしてでも乗りたいのかよ」と思う人がいるかもしれない。そこまでしてでも乗りたいのよ。足まわりガチガチ、ロールバー&フルバケットシート、エアコンレスのクルマなんて若いときでなければ楽しめない。アラフォー世代にでもなれば、フルバケットシートのままで仮眠なんてできなくなる(どうしても眠いときは別だが、起きたあとがツラい)。 あとは時間の使いかたもそうだ。仕事が終わり、夜「ふとドライブしようかな」と、あてもなく走るなんて行為もいずれおっくうになる。ましてや、家庭を持ったら若くしても夜な夜なドライブなんてほぼ不可能だと思った方がいい。 湾岸ミッドナイト3巻で平本洸一が妻である恵に発した 「も…ッ、もう一度、もう一度走っちゃダメか…?あの金使っちゃダメか…?本当にこれで最後だから…ゴメ…ン。ずっとふりきれて…なかったんだ」 のセリフを知っている人もいるだろう。どうやら作品のなかで2人は離婚しなかったようだが、現実はそうは甘くない。身重の妻がいるにもかかわらず、貯金に手を出して数百万円単位のクルマの買うなんてもってのほかだ。ましてや、そのクルマで最高速トライアル(バトル)をするわけだから、何の見返りもない単なるハイリスクな行為でしかない。無事にバトルを終えて帰宅できたとしても、不安のあまり妻が流産してしまう可能性だってある。 この時点で三行半を突きつけられるか、どうにか離婚を回避できたとしても、奧さんに一生頭が上がらなくなる(むしろ、その程度で済めば御の字だ)。 ■まとめ:いちばん怖いのは男の嫉妬かもしれない SNSなどで「20代でフェラーリ買っちゃいました。界隈の皆さんよろしくお願いします」という投稿を見つけて、コメントこそしないけれど、心のなかで頑張れーというエールを送っている。そのいっぽうで、聖人君子ではないので、正直うらやましいし、一部は親ローンでしょ?みたいな嫉妬心がないわけ…ではない。 ただ、その心境をありのままコメントする行為はまったく別の話だ。「それをいってしまったらおしまいよ」というやつだ。 昭和の時代の「平社員はカローラ」も、俺の方が偉い、立場が上という事実を内外にアピールするための手段にすぎない。社員が上司よりイイクルマに乗れるほど高給なんだと知らしめることにもなると思うのだが…。いつの時代も、いちばん怖いのは男の嫉妬かもしれない。 [ライター&撮影/松村透・画像/Mercedes-Benz、Porsche、AdobeStock]

30年近い苦悩の果てに「適度な緩さがあった方が愛車とは長く付き合えるんじゃないか」と気づいた話
ライフスタイル 2024.06.02

30年近い苦悩の果てに「適度な緩さがあった方が愛車とは長く付き合えるんじゃないか」と気づいた話

「愛車」と呼びたくなるクルマって何かと気を遣うよな…と思うのは自分だけだろうか。 汚れたり、傷がイヤであれば「乗らないに限る」となってしまう。それでも皮肉なもので、ガレージで眠らせたままでもクルマは傷んでいく。 見た目の程度は極上車であっても、長期間にわたって塩漬けにしていてれば、タイヤが硬化してブレーキも固着する。エンジンまわりや燃料ホースなどの機関系も総点検(大がかりな整備)が必要になるだろう。 オーナーの考え方や年代、モデルによって差があるにせよ、あれこれ気にしはじめたら本当にキリがない(自分の場合)。 どう転んでも、工場からラインオフした瞬間のコンディションを維持するのは不可能なのだ。 そんなことは頭ではそれは分かっている。分かっているのだけど…。「いい落としどころ」や「妥協点」が見出せず、気づけば30年近く、ずっとモヤモヤしてきた。 ■師はコンクールコンディションで3度ウィナーになった人 少年時代に強い影響を受けた人がいた。10代後半から20代前半に掛けてお世話になったアルバイト先の社長さんだ。ポルシェ911をこよなく愛する方だった。過去形なのは、数年前に病に侵され、すでにこの世を去ってしまったからだ。 アルバイトスタッフとしてお世話になっていた当時、社長さんの愛車はその年に新車で手に入れた1992年式ポルシェ911カレラ2だった。タイプ964の5速MT、グランプリホワイトのボディカラーに内装はブラックレザー。オプションで17インチカップホイール、スペシャルシャーシ、スライディングルーフを選択。スポーツシートやリアワイパー、さらにはその気になれば手に入れることもできた964RSはあえて選ばなかったそうだ(後に964RS用純正リアバンパーに交換している)。 車検を含めたメンテナンスはミツワ自動車のみ。当時定番の組み合わせだが、ポイントを押さえた仕様だと思う。 仕事が終わったあとの30分くらいではあるのだが、ときどき社長さんがドライブに連れだしてくれた。当時はまだ高校生。本来であれば、自分の日常とは別世界にいるはずの964カレラ2に乗せてもらう時間が至福のひとときだった。その結果、自分自身もポルシェ911という「底なし沼」にどっぷりとハマることになり、後に現在の愛車となる「プラレール号」こと1970年式ポルシェ911Sを所有することとなる。 結局、その964カレラ2は2005年末に納車された997カレラSに乗り替えるまで、社長さんが保有するガレージに収まっていた。この964カレラ2、ガレージで保管しているときは時間が止まっているのかと錯覚してしまうくらい、常に新車同然のコンディションを保っていた。こっそり17インチカップホイールの内側を指でなぞってみてもブレーキパッドの粉が付着しないのだ。 「964カレラ2にはあまり乗らず、ガレージで塩漬けにしていたんでしょ?」と思われるかもしれない。いやいやとんでもない。旧ポルシェオーナーズクラブに所属し、クラブの走行会では雨の日でも富士スピードウェイをガンガンに攻めていたし、高速道路では「ポルシェらしい走り(察してください)」で3.6リッターの空冷フラットシックスを思う存分に「吠えさせて」いた。 ひとしきり走り終えてガレージに戻ってくると、夜遅い場合はホイールやフロントバンパーに付着した虫を拭き取る程度で済ませていた。そして後日、エンジンルームやホイールの内側までたんねんに汚れを落としていた。その積み重ねが新車同然のコンディションを生み出していたと思う。 964カレラ2の前に所有していたのが1984年式の911カレラで、こちらはクラブ主催のコンクールデレガンスで3度も優勝したというから、その実力は折り紙つきだ。こんな人が身近にいたら、影響を受けない方がどうかしている。社長さんのようなコンディションは維持できないけれど、洗車に関してはそれなりの流儀が身についてしまった。 洗車するときは風が弱い曇りの日。ボディの汚れを落とすときはスポンジを使いつつ、常に水を流しながらゆっくとていねいに。ワックスはSoft99の半練り一択。1パネルごとに新品のスポンジを1個ずつ使って練り込む。スポンジは使い捨てだ。仕上げはネルクロスだったと思う。洗車が終わると、水を飛ばすために近所をひとまわり。もちろん油温が安定するまで走る。端から見る限り、特別なことは何もしていない。ただ、洗車を終えると、そこに新車同然の964カレラ2がたたずんでいるのだ。その後、自分の愛車を洗車する際、いくら真似をしても社長さんのような仕上がりにはならなかった。 ■意識しすぎて乗るのが辛くなったという、あるロードスターオーナーの話 数年前、とある媒体の案件で、マツダ ユーノスロードスターオーナーを取材する機会があった。シリーズ2のVスペシャルIIは惚れ惚れするほどのコンディションで思わず「譲ってください!」と口から出かかってしまったほどだ。 ちなみに、VスペシャルIIの前にはM2 1001に乗っていたという。取材中に「レアモデルゆえの緊張感が、いつのまにか負担になっていたようです。例えば、ちょっとした用事でクルマから降りるときも目が離せなかったり、壊したくないと“貴重品”のように扱っているうち、自分のものではないような感覚になってしまっていました」とオーナーがおっしゃった。 M2 1001といえば、販売当時から争奪戦が繰り広げられ、いまでは市場にもめったに姿を現さない。300台のうちの何台かは海外に流失しているという話も耳にする。貴重であるがゆえに目が離せないという緊張感は、やがてストレスに変わる。せっかくのM2 1001をドライブするのが苦痛になってしまってはあまりにも辛い。そこでオーナーはM2 1001を手放し、VスペシャルIIに乗り替えたそうだ。貴重なモデルを所有していた方ならではのエピソードだけに、とても説得力があった。 ■あるハチロクオーナーを取材したときに気づいたこと また別の取材では、28年間、ハチロクを所有しているという女性オーナーの方にお会いする機会があった。集合場所にやってきたハチロクは、年式相応に使い込まれた「いいヤレ具合」を醸し出していた。 取材した日は、冬晴れの、風が強い日だったと思う。インタビューをしているあいだ、オーナーさんはフロントガラスをサンシェードで覆い、車内に日差しが入らないように愛車を保護していた。たとえ数時間であっても、少しでも紫外線によるダメージを防ぎたいのだと思った。 取材中、車内の様子を拝見させてもらうと、ナルディのステアリングのグリップの一部が劣化していたり、純正シートのサイドサポートも少しクタッとしていた。まさに1人のオーナーが使い込んできたからこそ刻まれた年輪のようだった。 さらに取材を進めていくうちに、ハチロクのエンジンや足まわりなどの機関系のメンテナンス、そして愛車の異変を察知する嗅覚の鋭さには驚かされた。些細な異変も敏感に察知し、主治医に診てもらうと、確かに不具合が生じていたそうだ。 この2つの取材が自分にとってのターニングポイントとなった。愛車の傷や劣化に一喜一憂していたら辛くなるいっぽうだ。走らせる以上、汚れもするし傷もつく。それはもう「オーナーだけの特権であり、勲章」として受け止め、機関系のコンディション維持に注力しようという、至極あたりまえな結論にようやくたどり着いた。 ■まとめ:30年近い苦悩の果てに「適度な緩さがあった方が愛車とは長く付き合えるんじゃないか」と気づく 沖縄や奄美地方はすでに梅雨入りしているが、本州地方もそろそろだろうか。愛車を所有するオーナーの方たちも、春先から続いたイベントやツーリングのお誘いなどが一段落した頃だろう。 古いクルマを所有するオーナーにとって、秋から冬に掛けての出番に備え、ここ数ヶ月は愛車のメンテナンスや、冬眠ならぬ夏眠(?)の時期に入るんだと思う(いっぽうで、降雪地帯にお住まいの方は冬場もガレージで眠らせるのだろうから、思う存分に愛車との時間を楽しめるのは年に半分くらいという方もいるかもしれない)。 エントリーしているイベント、あるいは仲間同士で出かけるツーリングなど。雨天延期、あるいは中止であればいいのだが…。問題は「朝、集合する時点では晴れか曇りでも、出先でほぼ確実に雨が降る」場合だ。いわゆる「微妙な天気」というやつだ。お天気アプリの時系列予報をチェックすると雨マークがしっかりと表示されている。ゲリラ豪雨などがいい例だ。 自分の愛車も錆対策が施されていないので、本音をいえば足車で参加したい。しかし、それでは他のメンバーに申し訳ない気がする。クルマを濡らしたくないというのが本音だ。事実、イベントの参加を断念したこともあった。そのときの後味の悪さといったら…。 しかし、ユーノスロードスターやハチロクのオーナーのおふたりから話を伺ってからは少し考え方を変えた。わざわざ雨のなかを走ろうとは思わないが、多少濡れても仕方がない。おふたりのおかげで、少し時間が掛かったけれど、ようやく愛車との適度な距離感がつかめたのかもしれない。 投機目的で愛車を所有しているわけではないし、コレクターズカーにするつもりもない。ふとした空き時間に走りを楽しむために手に入れ、いままで所有してきたのだ。至極あたりまえだが、走れば汚れるし、傷もつく。それに対して一喜一憂していたら身が持たない。 少年時代のアルバイト先の社長さんを師と仰いでからすでに30年以上の年月が経った。遅まきながら、ようやく「適度な緩さがあった方が愛車とは長く付き合えるんじゃないか」という結論にたどり着けた気がする。 [画像・TOYOTA,Mazda ライター・撮影/松村透]  

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