旧車の過熱ぶりはドイツと日本も同じ?では、決定的に異なる点とは?

目次
1.■100年以上前から存在する「自動車クラブ」 2.■ドイツでは、メーカーからの部品供給が手厚い 3.■ドイツでは「趣味としてのレストア」が成立するほどハードルが低い 4.■綿々と続いている「自動車偏愛」

日本における旧車人気の過熱ぶりはとどまるところを知らない。

非常に残念なことではあるが、毎週のように国産旧車スポーツカーが盗難に遭うニュースが聞かれるほど、今注目度が高まっているのはたしかだ。

現オーナーの方たちも、複雑な心境で状況を見守っているのではないかと推察する。

それに比べると、同じ自動車大国・趣味国であるドイツでの「ヒストリックカー熱」は、表面上はとても落ち着いているように見える。

もちろん、ヒストリックカー全体の価格相場は上昇傾向にはあるけれども。

今回は「日本とドイツの旧車(ヒストリックカー)の過熱ぶり、共通しているところと決定的に異なる点」と題して、ドイツと日本における「熱の違い」を紹介していこうと思う。

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■100年以上前から存在する「自動車クラブ」

最初に伝えたいのは、ヒストリックカークラブの数と、その歴史の違いだ。

日本にも数多くの旧車クラブが存在する。

コロナ禍以前は、たくさんのイベントやミーティングが毎週末のように行われていた。

しかし、ドイツのヒストリックカークラブの数はその比ではない。

インターネットで都市名とともにクラブの検索をかけると、それこそ無数に出てくる。

その中でも特に格式高いとされているヒストリックカークラブは、その歴史が非常に古い。

中には19世紀後半に設立されたクラブまで存在する。

それらは、まだ自動車が特権階級だけの乗り物だった時代に設立されているから、ただ自動車を愛好する会というよりは「上流階級たちの社交場」という意味合いも多く含まれていた。

現在ドイツ国内のコンクール・デレガンスを行っている団体は、こうした古いクラブや組織をルーツに持っている場合が多い。

彼らは、ヒストリックカーがヒストリックカーと呼ばれる前、つまり新車として存在していた時代から、クルマを愛好する会を運営し続けている。

もっとも、日本でもっとも古いとされている自動車クラブ「オートモビル・クラブ・ジャパン」の歴史は明治41年(1908年)までさかのぼるというから、決して引けは取らないのだが。

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■ドイツでは、メーカーからの部品供給が手厚い

古くからの愛好家たちが大勢いるという地盤があるおかげだろうか、ドイツではヒストリックカーの部品供給はとても良好だ。

ドイツの主要ブランドは、ポルシェ・クラシックやメルセデス・ベンツ・クラシックといった「ヒストリックカー部門」を社内に持っている。

名車CTR、通称「イエローバード」で知られるルーフ社のようなごく小さな会社ですら、クラシック部門が存在する。

そこでは、純正部品の供給や、メーカー自身によるレストア、ヒストリックカーに対応したデザインのナビゲーションシステムやヒストリックカー専用オイルの開発などが行われている。

こうした純正部品以外にも、サードパーティ製の安価で高性能な部品が多く販売されている。

フォルクスワーゲン・タイプ1のような「ヒストリックカー入門車」の場合、ほとんどすべてのパーツに純正部品か、サードパーティ製部品かの選択肢が存在するほどだ。

これらの部品の中には、ヒストリックカーと呼ばれるようになってから再生産されたものもあるが、単に「新車当時から供給が続いている部品」も多い。

ドイツの人々の中には「そのクルマを気に入ったら、こつこつ直しながらとことん(何十万キロも)乗る」という人も少なくないから、その要望にメーカー側が応えているといえる。

こうしたヒストリックカーに対するメーカー側の姿勢の違いは、日本とは大きく異なる点だろう。

日本でもメーカーによるレストアサービスや旧車の部品供給が少しずつ始まっているが、その車種はかつての人気車種やスポーツカーといった、非常に偏りのあるラインナップにとどまっている。

個人的な願いとしては、国民の生活とともにあった大衆車にこそ、スポットライトが当たってほしいと願っているのだが。

■ドイツでは「趣味としてのレストア」が成立するほどハードルが低い

日本とドイツ、どちらにもレストアを行う業者は多い。

違いがあるのは、「メルセデス・ベンツ・300SLのレストアだけを行う」といった、超高額・超希少車だけを取り扱うことだけで運営している業者が存在しているという点だ。

日本において「トヨタ・2000GTのレストアを行う」業者は存在していても、2000GTのレストア、ただそれだけで運営を続けるのは非常に難しいはず。

もっとも、ドイツに存在している多くのレストア業者も、さまざまな車種を扱うのが一般的ではあるのだが。

レストア業者に頼んで新車同様に仕上げてもらう人もいれば、ヒストリックカークラブのみんなでこつこつレストアして楽しむ人たちもいる。

先述したように、極端に珍しい車種でなければ、部品の入手は難しくない。

新車当時の整備マニュアルや図面などもインターネットで入手できるし、人気車種であれば車種別の「レストア指南書」も販売されているから、それらを参考にレストアを趣味にしている人も多い。

レストアを趣味にするハードルは、日本よりもずっと低いといえるだろう。

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■綿々と続いている「自動車偏愛」

ここまで、日本の旧車熱と、ドイツのヒストリックカー熱の違いについて取り上げてきたが、いかがだっただろうか。

ざっくりと一言でまとめると「歴史と文化が深い」ということになるだろうか。

ドイツのヒストリックカー熱は今になって盛り上がったわけではなく、それこそ19世紀後半からの「自動車偏愛」が綿々と続いている、といったほうが正しい。

ドイツでは連日、気候変動保護に対する議論が進んでいて、ガソリンエンジン車がいつまで公道を走ることを許されるのか、という問いは市民の間でも話題になるほどだ。

ヒストリックカーを愛好する人々は、公道を走れなくなる最後の日まで、噛みしめるように公道のドライブを楽しむことだろう。

[ライター/守屋健]

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