日本車が元気に走る!不思議の国・インドのクルマ事情とは?

目次
1.■インドの街並みとモータリゼーション 2.■ニューデリーにおける人気のジャンルとは? 3.■インドで出会う古いクルマたち! 4.■新刊のお知らせ

■インドの街並みとモータリゼーション

▲新型車も古くからのキャリーオーバーモデルも連なる市街地。その合間をバスやスクーターと自転車、徒歩の人までが行き交う

パンデミック直前の2020年の冬、筆者はインディラ・ガンディー国際空港に降り立った。

外はデリバリーのタクシーでごった返し、南アジア独特のまとわりつくような空気を肌で感じとる。

不思議の国、インド。

その名を聞けばガンジス川にタージマハル。

神秘的な景色と歴史。

そのなかに力強く、目をギラつかせながら逞しく生きている人々の情景をつい思い浮かべてしまう。

ニュースで伺っている通りインド経済は右肩上がりで、やがて中国を抜いて世界で最も人口が多い国になるらしい。

当たり前のように多くの人はスマートフォンを持ち、都市部では電子決済システムの導入も珍しくない。

乗り合いタクシーのオートリキシャは順次EV化へと進んでおり、まだ設置箇所は一部ではあるが充電スポットなんかも街中で見るようになってきた。

インフラや道路が未整備に感じられる箇所も多く存在するものの、道路建設やショッピングモールも増えはじめた。

これでマンパワーがあれば、やがて他の新興国のように街全体が近代的に発展するのも時間の問題だろう…。

そんなことを考えながら、空港から市街地へと向かうトヨタ・エティオスセダンのタクシーから車窓の風景を眺めた。

▲日本車の進出も大きい。手前がトヨタ・エティオス。奥がトヨタ・イノーバ

エティオスは2011年からインドをはじとしたBRICs諸国へとデリバリーが始まったモデルで、2021年まで10年もの間販売されていたロングランモデルだ。

発売されてすぐの頃、ニュース記事に「気温の高い国で販売される同車種は、運転席に乗り込んだ瞬間に顔へと風を浴びられるように、大き目の丸型ルーバーを装備した」という記事を読んだ記憶がある。

当時は「デザインや設計にもさまざまな観点があるものなんだな」と感じていたものだが、蒸し暑いインドの気候のなか、ドライバーがまさに心地よくエアコンの風を浴びているのを見て、一人後部座席でほくそ笑んでしまった。

空港からニューデリーの駅前までは約50分ほどかかる。

ホテルにはギラギラの電飾が飾られ、四方八方からクラクションの音を響かせあう。

あまりにもひっきりなしに鳴らすので、インドのクルマは”クラクション自体”が故障することもあるそうだ。
車両と車両の間はギリギリまで詰めてすぐに渋滞になるが、不思議なものでさほど事故を起こしている場面には遭遇しなかった。

ネットで有名な動画に、クルマが往来する車道を平然と渡っていくインド人の映像を見たことがある。

一体そのバランス感覚はどこで培ってくるものなのかはまさにインドの不思議のひとつだ。

実際にインド人に手を繋いでもらいながらたくさんの車が行き交う道を渡ってもらうと、止まったり怯むことなく平然と道を渡り切ってみせてくれるので、とても印象的な体験だった。

話を戻そう。勃興著しいインド市場。人々と経済が豊かになれば、当然のように欲されるのはクルマだ。

10年以上前、インドの大手現地メーカーのタタ社が10万ルピー(当時のレートで30万円以下)で日本の軽自動車よりも小さい「ナノ」という自動車を発売したのは衝撃的なニュースだった。

自動車とスクーターの中間を補うようなモデルだったが、都市部のニューデリーで現地の男性ドライバーにタタ・ナノの話を伺うと「ああ、あの小さいクルマね...悪くないけど、どうせお金を出して買うならセダンのほうが良くない?安全だし」とあっさり答えられてしまった。

日本のクルマ趣味人に聞かれた手前、自国の古いクルマに対して少し恥ずかしがって答えたようにも思われたが、実際ニューデリーの街中でタタ・ナノとすれ違う回数はそう多くなかったと思う

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■ニューデリーにおける人気のジャンルとは?

インドといっても非常に広い国であり、経済事情や産業によって必要とされるクルマは異なってくる。

インド国内でもいくつかの都市を見て回ったが、首都であるニューデリーではどんなクルマが流行っているのか。

世界の街角に生きているクルマの姿を切り取り続けている筆者目線で伝えていきたい。

街を見渡すとA〜Bセグメントのコンパクトカーの人気は絶大だ。

マルチスズキのアルト800をはじめ、現代・i10シリーズやタタ・TIAGOなどファミリーから若者、ビジネスカーとして使われる個体まであちこちにいる。

ワゴンRなども多数見かけるが、新車価格が日本円で50万円台から用意され、まさにエントリーカーとしての立ち位置を担い続けているアルトおよびその競合車種が一番の人気といって良いだろう。

ここ数年ではコンパクトカー派生のSUV系の人気が、各メーカー猛威をふるっている。

スズキでいうとAセグメントにあたるエスプレッソがそうだ。

車体は3565mmで軽自動車の寸法を僅かに伸ばした程度であるが、隆々としたボディワークはユニークだ。

海外勢だとルノーやヒュンダイからも同様の車種がリリースされ、街中ですれ違う機会が増えている。

特にポップなデザインは若者需要も巧みに掴み取っており、趣向をキャッチするのが上手いと感じる。

次いでセダンの台数もかなりを占めているように感じる。

これはタクシーで使用されるセダンの数が多いことにも由来するが、これからさらに大きく成長していくインド市場のなかで、”ちょっと良いクルマ像”を追い求めて購入するユーザーが多いことを象徴しているかのようだ。

とはいえ、海外のプレミアムカーであるメルセデスやBMWに関しては見かけると“いかにもお金持ち!”といった印象が強い。

街中で多く見かけるのはマルチスズキ・スイフトディザイアやタタ・Tigor、ヒュンダイ・AURAなどA~Bセグのコンパクト3BOXだ。

ハッチバックにノッチをつけたスタイリングはまさにインド市場的であり、愛嬌を感じさせるデザインだ。

しかし近年では、ハイグレードにもなるとディスプレイオーディオなど上級な装備の設定があり、内装色やパネル類にもこだわりを感じさせる”イイクルマ感”がしっかりと演出されていてなかなかに侮れない。

車種によってはバイフューエルエンジンも用意され、エコ・パフォーマンスに訴求するモデルも多い。

ここで旧車王ヒストリアの読者の皆さまには残念なお知らせだ。

インドでは排ガス規制である「バーラト・ステージⅥ」が実施され、古いクルマは以前よりいっそう姿を少なくさせつつある。

2020年時点でもマルチ・スズキ製のエスティーム(スズキ・カルタスエスティームのインド版)は見ることができたが、台数を減らしているであろうことは街中ですれ違う台数の少なさからも見受けられる。

インドにおけるタクシーの顔だったヒンドゥスタン・アンバサダーも2011年にタクシーとしての使用が禁止され、街中での遭遇回数はめっきりと少なくなっている。

2014年に販売が終了する頃までいすゞ製のディーゼルエンジンが積まれていたりなど、意外なところで日本メーカーとの繋がりがあるが、ヤングタイマーになる前に個体自体が数を減らしてしまうのかもしれない。

■インドで出会う古いクルマたち!

・・・と、インドのモータリゼーションは先述の通り環境規制なども相まって意外にも新しいクルマが多いのだが、さまざまなブランドが業務提携などを行い古くから製造を続けてきた「近年まで作り続けられている旧型車」が穴場的な存在だ。

例えばアショック・レイランド製の「ドスト」という小型トラックは2011年から2016年まで製造されている比較的新しい車種だが、日本では1985年に製造が開始されたC22型のバネットをベースとしているものだ。

クルマ好きの読者ならば写真をみれば一目瞭然だが、フロントエンドを新造していながらも、キャブはバネットの面影を色濃く残している。

旧スワラジ・マツダを引き継いだSML・いすゞ社からは1982年リリースのマツダ・パークウェイが長きに渡り製造され続けていた。

日本ではほぼ見かけることがなくなったパークウェイだが、インドではさまざまなボディタイプがあり、少なくとも2020年のデリーショーではパンフレットが配布されている。

バスボディの世界は根が深い...と思わざるを得なかった。

もちろんトラックも多数現存している。

▲手前から三菱・パジェロスポーツ、旧スワラジ・マツダ(現SML・いすゞ)のトラック、奥にマルチスズキ・ZENが見える

マルチスズキからは80年代のスズキ・キャリーをベースとしたオムニバスが2019年まで販売されており、いまだに街中で見かける。

渋滞のなかを救急車仕様のオムニバスが走っていくのを何度も見かけたが、日本の高規格救急車の姿に見慣れている自分としては、あの小さなボディでどんな搬送業務が行われているのかは未知の世界だ。

後継車種に当たる「イーコ」は1998年リリースのエブリィ・プラスを基本としたものだ。

現在でもマルチスズキにて新車としてラインナップされている。

今でも新車で買える日本の90年代車としては徐々に希少な存在になってきた。

現在では中国資本のブランドも数多く参入し、選択肢が増えていくインド市場。

キャッチアップに優れたニューカマーと熟成されたモデルが入り乱れる街中のモータリゼーションの風景は、今後さらに混沌を極めるだろう。

まだ、インドでは庶民的なクルマに”レトロ”や”クラシック”をありがたがるという概念は薄いだろうが、今後は現在の中国や韓国のようにレトロフューチャーの波がいずれやってくるのかもしれない。

逆にその頃、日本のセルボ・モードや初代MRワゴンにインドから熱いラブコールがかかったりしたら面白いのだが…。

これからの未来、インドにどんなクルマ趣味が広がっていくのか、今から期待だ。

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■新刊のお知らせ

筆者は自費出版、いわゆる同人誌というものを制作している。

世界の街角を行くクルマの姿をひたすらに撮り続ける本「世界まちかど自動車シリーズ」も新作のインド編で5作品目だ。

まさに今回の記事の延長線でありながら、さらにディープな内容になる予定である。

興味のある読者の方はぜひ、以下のURLより確認していただきたい。

●インドじどうしゃ #世界の中心編 著:TUNA・サークルINPINE
2022年12月31日発売
https://inpine.booth.pm/items/4418054

[ライター・撮影/TUNA]

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