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旧車の魅力と知識

トヨタ 100系チェイサーの魅力に迫る! レースでも証明したスポーティモデルとしての実力も紹介
旧車の魅力と知識 2024.07.23

トヨタ 100系チェイサーの魅力に迫る! レースでも証明したスポーティモデルとしての実力も紹介

販売終了から20年以上が経過しているにも関わらず、現在でもプロドリフト競技でも活躍するJZX100 チェイサー。いわゆる100系チェイサーと呼ばれるこのモデルは、スポーツグレードのツアラーVを筆頭に、スポーツ性能の高さにより人気を集めました。 本記事では、ツアラーVを中心に100系チェイサーの特徴と魅力を紹介します。 フルモデルチェンジでマークⅡと人気を二分した100系チェイサー マークⅡ3兄弟と呼ばれるように、90系までのシリーズの中心はマークⅡでした。チェイサーは、3兄弟のなかでもっとも人気が低かったといわれていますが、100系では、マークⅡと人気を二分するほどの存在感を放ちました。 マークⅡやクレスタとは違う性格をもたせて成功した、チェイサーの開発背景について振り返ってみましょう。 チェイサー最後のモデルはスポーティーさを意識して開発された チェイサーは1996年に100系へとフルモデルチェンジし、明確なスポーティーモデルに進化しました。また、マークⅡの次モデルでは3兄弟体制が解体されて発売されなかったため、結果的に100系がチェイサー最後のモデルになりました。 マークⅡやクレスタとのもっとも大きな違いは、前後のオーバーハングが切り詰められている点です。オーバーハングが長く安心感を与える2台に対して、運転のしやすさや俊敏性につながる設計にしたことでスポーティモデルという位置づけを明確にしています。 また、BMW E36型3シリーズに似ているといわれる4灯ヘッドライトの形状やリアスポイラーなどが取り付けられた端正な見た目も、100系チェイサーを象徴するポイントです。 上級モデルという車格にふさわしい装備 高級サルーンとしての充実した装備も、100系のマークⅡ3兄弟の魅力です。100系が登場したのは「セダン・イノベーション」を掲げてトヨタがセダンの充実に取り組んでいた時期で、従来よりも装備が豪華になっていました。 エアコンのルーバーが自動で左右に動くオートスイング機構や、自発光するオプティトロンメーターといった上位モデルの装備までも盛り込まれていました。さらに、トヨタ車初となるディスチャージヘッドライト(HID)やシリーズで初めて衝突安全ボディ「GOA」を採用するなど、先進性も高められています。 100系チェイサーの性格がもっとも色濃く反映されたツアラーV 数あるチェイサーのグレードのなかで、「ツアラーV」がスポーティさをもっとも反映したモデルです。名機と呼ばれる1JZ-GTEエンジンを搭載し、レースでも輝かしい実績を残しました。 ここでは、100系チェイサーを代表するグレード、ツアラーVの魅力を掘り下げます。 90系から性能アップを遂げた1JZ-GTE 100系チェイサーのエンジンは、先代90系に引き続き1JZ-GTEでした。しかし、型式こそ同様ですが、100系に搭載されたエンジンは大幅な進化を遂げています。 最高出力は自主規制いっぱいの280psのままですが、ツインターボからシングルタービンに変更したことで最大トルクを37.0kgmから38.5kgmにまで向上させました。さらに、シリンダーヘッドにはVVT-iと呼ばれる可変バルブタイミング機構を搭載。全回転域で連続して吸気バルブのオーバーラップ量を変化させることで、出力特性と燃費性能の向上が図られています。 セダンなのにLSDまで装備 チェイサー ツアラーVには、トルセン型LSDまで装備されていました。(AT車はメーカーオプション)LSDとは、ディファレンシャルギアの差動を制御する装置です。 ディファレンシャルギアはコーナリングで生じる内輪と外輪の回転差を吸収できる一方、吸収した回転差分のトルクは失われてしまいます。常にクルマを前に進めたいスポーツ走行において、トルクのロスが発生するのは致命的です。そこで、LSDでディファレンシャルギアの動作を抑えることで、トルクロスを低減させます。 一方、ディファレンシャルギアの働きを抑制するため、通常走行時の回頭性や乗り心地が犠牲になってしまう点がLSDのデメリットです。乗り心地を重視する高級セダンなのにLSDが装備されている点からも、チェイサー ツアラーVがいかに運動性能を重視していたのかがわかります。 ドリフトだけでなくレースでも示した高いポテンシャル 100系チェイサーに対して、ドリフト車というイメージを持つ方も少なくありません。事実、多くのドリフトユーザーから愛されて、現在でも競技で使用されています。最近では、フォーミュラドリフトジャパン2023で、チームオレンジのKANTA選手(柳杭田貫太選手)がチャンピオンの座に輝きました。 一方で、短期間しか参戦していないためにあまり語られませんが、レーシングカーとしても高い実力をもつモデルです。1997年からわずか2年間しか参戦していないものの、JTCC最終年の1998年にチャンピオンを獲得しています。1997年シーズンの最終戦、インターTECでは、つちやエンジニアリングのチェイサーのステアリングを、土屋圭市氏がステアリングを握りました。 人気モデルだけに中古車購入時には注意が必要 100系チェイサーは、販売台数が多かったため中古車で比較的入手しやすいモデルです。特にツアラーVはセダンにも関わらず販売台数の3割がMTともいわれていて、ドリフトをはじめとするスポーツ走行目的で購入する方も少なくありません。 しかし、ツアラーVを中心にドリフト競技で酷使された個体も少なくないため、中古車を購入する際は注意が必要です。特にMT車を選ぶ方は、クルマの状態を細かく確認してください。AT車であれば比較的状態のいい個体も残っているため、あえてAT車を選ぶというのも選択肢の1つです。 100系チェイサーは、スポーティセダンという3兄弟のなかで明確な立ち位置を確立しました。チェイサー最終モデルということも相まって、今後も高い人気を保ち続けるでしょう。

鍛造ホイールとは?メリットや鋳造ホイールとの見分け方も紹介
旧車の魅力と知識 2024.07.18

鍛造ホイールとは?メリットや鋳造ホイールとの見分け方も紹介

アルミホイールの製造方法には、「鍛造(たんぞう)」と「鋳造(ちゅうぞう)」の2種類があります。それぞれホイールの見た目は似ているものの、特徴が大きく異なります。 愛車のドレスアップのためにホイール交換を検討する際には、違いを理解したうえで、どちらを購入するか決めるとよいでしょう。この記事では、鍛造ホイールとは何かをテーマに、特徴や鋳造ホイールとの違い、見分け方などについて紹介します。 鍛造ホイールとは? 鍛造ホイールとは、ビレットと呼ばれるアルミ合金に高い圧力をかけて成形されたホイールのことです。走行性能が高いスポーツカーや高級車など、大径でタイヤが太い車種に純正で装着されている傾向があります。 また、ホイールの種類のなかでも軽量で剛性が高いため、走行性能が追求されるレース車輌にも採用されています。 鍛造ホイールの特徴 鍛造ホイールは、アルミ合金をホイールの金型に流し込み、大きな圧力を加えて圧縮したり叩いたりして製造します。伝統的な日本刀の製造方法と同じであり「鍛えて造る」ことから、鍛造と呼ばれています。 金属は叩けば叩くほど強度が増します。そのため、剛性の高いホイールを製造するにはぴったりの素材です。 なお、鍛造ホイールを製造するには高度な技術が必要なため、容易に参入できる業界ではありません。鍛造ホイールの代表的なメーカーは以下のように限られています。 ・BBS・RAYS・TWS 鋳造ホイールとの違い 鍛造ホイールと鋳造ホイールでは、製造方法に違いがあります。 鋳造ホイールは、鋳型に溶かしたアルミ合金を流し込み、そのまま冷やして固めたホイールです。鍛造ホイールのように、圧力を加えたり叩いたりする工程がなく、低コストで大量に製造できる特徴があります。 そのため、鍛造ホイールに比べて値段が安いものが数多く販売されています。また、デザインの自由度も高くさまざまな種類のホイールを製造できるため、多くのメーカーが取り扱っています。 一方で、鋳造ホイールのデメリットは、製造中に「巣」と呼ばれる空洞や穴ができることです。ホイールの空洞や穴は、タイヤの空気が漏れる原因になります。 また、鋳造ホイールは時間をかけて圧縮したり叩いたりしないため、鍛造ホイールより剛性が劣っている傾向があります。仮に剛性を高めるとその分厚みを持たせる必要があり、重量が増えるという課題が生じます。 鍛造ホイールのメリットとデメリット 鍛造ホイールの購入を検討する際は、メリットとデメリットを把握したうえで自身に適しているかどうかを判断することが大切です。 続いて、鍛造ホイールのメリットとデメリットを紹介します。 鍛造ホイールのメリット 鍛造ホイールは、軽いにもかかわらず剛性が高いことが特徴です。ホイールが軽いと車輌重量が軽くなるため、クルマを動かすのに必要な力が減るうえに、タイヤが路面から離れて空転する回数が減り、燃費が向上します。 さらに、ホイールが軽量化するとバネ下重量も軽くなります。バネ下重量とは、サスペンションのスプリングよりも下側、つまりよりタイヤに近い方の重さのことです。バネ下重量が軽くなると、サスペンションの動きがよくなって乗り心地が向上する傾向にあります。 また、鍛造ホイールは鋳造ホイールよりも剛性が高いため、レーシング用のハイパフォーマンスカーやスポーツ走行を楽しむクルマで使うのに適したホイールです。その証拠に、スポーツカーの代表格であるスカイラインR32 GT-RやフェアレディZ Z34は純正ホイールに鍛造ホイールを採用しています。 そのほか、外観においてもメリットがあります。鍛造ホイールの引き締まった質感により、高級感や上質感を演出できるため、ドレスアップ用のホイールにも適しているでしょう。 鍛造ホイールのデメリット 鍛造ホイールは、鋳造ホイールよりも製造に手間がかかるため、その分コストが高くなります。また、製造工程の関係で鋳造ホイールのように複雑な形状に対応できず、デザインの自由度が低いというデメリットもあります。 しかし、最近では成形後に機械で削り作業を行うことにより、以前よりも複雑なデザインに対応できるようになりました。 鍛造ホイールには、燃費や乗り心地が向上するメリットがあるため、多少コストはかかってもいいから性能がよいホイールを使いたいという方におすすめです。 鍛造ホイールの見分け方 鍛造ホイールと鋳造ホイールは見た目が似ているため区別がつきにくいものの、刻印されている文字で見分けられます。 ・鍛造ホイール:文字が彫られている(凹形状)・鋳造ホイール:文字が盛り上がっている(凸形状) 鍛造ホイールは、圧縮したり叩いたりするため、鋳造ホイールのように凸形状にするのは難しいとされています。 また、鍛造ホイールには「FORGED」の文字が刻まれていることが多いです。「FORGED」と刻印されているのであれば、鍛造ホイールで間違いないでしょう。 また、一部の手触りで判別できる場合もあります。鋳造ホイールの裏溝(ハブの逃げ穴)は表面処理されていないことが多く、ざらついている場合があります。ただし、ざらざらしていない鋳造ホイールやそもそも裏溝が存在しない鋳造ホイールもあるため、一概には言い切れません。 まとめ 鍛造ホイールは、アルミ合金を圧縮したり叩いたりすることによって製造されます。軽量で剛性が高いホイールであり、燃費や乗り心地の向上が可能です。また、スポーツ走行に適したホイールとしても人気を博しています。ただし、鍛造ホイールは価格が高いため、購入する場合は予算を考慮しましょう。 一方、鋳造ホイールは低コストで大量生産できるために価格が安いですが、剛性は鍛造ホイールに劣ります。 それぞれのメリットとデメリットを把握し、自身に合ったホイールを選びましょう。

ドアハンドルのフラップタイプとは?メリットや採用車を紹介
旧車の魅力と知識 2024.07.18

ドアハンドルのフラップタイプとは?メリットや採用車を紹介

2000年以前には、現在主流のグリップタイプではなく、フラップタイプのドアハンドルを採用しているクルマが多い傾向にありました。デザイン性を重視するために、2000年以降にもフラップタイプのドアハンドルを採用しているクルマがいくつか発売されています。 この記事では、フラップタイプのドアハンドルの特徴やメリット、減ってきている理由、採用している車種などについて紹介します。 フラップタイプのドアハンドルとは フラップタイプのドアハンドルとは、下から手を差し込んで小さな板状の取っ手を持ち上げるようにして開けるドアハンドルのことです。 かつてドアハンドルといえばフラップタイプが主流であり、国産のベーシックカーを中心に採用されていました。モデルによっては、横から手を入れてドアハンドルを引くタイプもありました。 また、ドアハンドルにはフラップタイプのほかに「グリップタイプ」もあります。上下のどちらかからドアノブを握り、手前に引くとドアを開けられます。ドイツ車や高級車などの一部の車種では、昔からグリップタイプを採用していました。 グリップタイプよりも構造が簡単で低コストで製造できることから、国産車ではフラップタイプが主流となっていました。しかし、現在ではグリップタイプもそれほどコストをかけずに製造できるため、現在はほとんどのクルマでグリップタイプが採用されています。 フラップタイプのドアハンドルのメリット フラップタイプのドアハンドルは、グリップタイプに比べて軽いうえに小さい形状になっています。 車体サイズが小さい軽自動車やコンパクトカーは、ボディの限られたスペースを有効活用するために、フラップタイプが採用される傾向にありました。ドアハンドルが軽いと弱い力でもドアを開けることができます。 また、ボディとドアハンドルがフラットになっており、わずかながら空気抵抗が少なくなります。加速性能が向上し、走行中の安定性も確保されるため、スポーツカーにフラップタイプが採用されやすい傾向にあります。 一方、グリップタイプはユニバーサルデザインになっており、上下どちらからでも手を入れることが可能です。 ユニバーサルデザインとは、年齢や性別、身体の状況、文化などの違いにかかわらず、誰もが利用しやすいようデザインされた商品やサービスのことです。ドアハンドルをしっかり握れるため、力を入れやすくドアを開けられます。 さらに、グリップタイプは手をかけたときに爪がドアハンドルに当たらないため、爪やクルマのボディを傷つける心配がほとんどありません。 フラップタイプが減ってきている理由 フラップタイプが減ってきている理由は、グリップタイプのほうが使い勝手がよいうえに、安全面に配慮されていて現代に合っているためです。 たとえば、万が一の事故の際に手以外の方法でドアを開けることも可能です。ロープやフックをドアハンドルに引っ掛けて乗員を救出できます。なお、ドイツメーカーのフォルクスワーゲンでは、こうした安全面を考慮して、フラップタイプが主流だった時代からグリップタイプを採用し続けています。 また、現代ではリモコン操作やドアの下に足をかざすだけで開けられるスライドドアが普及していることも、フラップタイプの需要が減っている理由の1つです。 ただし、今でもデザインを重視してフラップタイプを採用している車種もあります。たとえば、ホンダのS660(※2022年3月に生産終了)やスズキのジムニーです。 フラップタイプが採用されている車種の例 フラップタイプが採用されている車種の例は、以下のとおりです。 ・日産 スカイライン R34(1998年発売) ・トヨタ クラウン S17(1999年発売) ・三菱 ランサーエボリューションⅤ(1998年発売) ・ホンダ NSX(1990年発売) ・マツダ RX-7 FD3S型(1991年発売) フラップタイプが壊れる原因 フラップタイプは、経年劣化により突然外れるケースがあります。特に冬にドアハンドルが寒さにより硬直し、急いで強く引っ張った際に外れる事例が多く見られます。 高年式のクルマでも稀に発生します。古いクルマを扱う際には、ドアハンドルを引っ張る際の力加減により注意が必要です。 フラップタイプが壊れた場合は、ほかのドアから車内に入り、内側から解錠すれば開けられます。ただし、チャイルドロックがかかっていると、内側からドアを開けられないため専門業者に修理を依頼しなければなりません。 なお、ドアハンドルが壊れた場合は該当箇所のパーツを交換すれば修理できます。交換費用の目安は以下のとおりです。 ・部品:5,000〜1万5,000円程度・工賃:1万円程度 ただし、パーツの生産自体が終了している場合は、中古パーツで修理しなければなりません。中古パーツを入手できなかった場合は、ドアハンドルの修理ができないことに留意してください。 まとめ フラップタイプは軽くて小さいため、クルマをコンパクトに設計できるほか、力が弱い人でも開けやすいドアハンドルです。 また、フラットな形状なため空気抵抗が少なくなり、わずかながらも加速性能が向上する点も魅力です。 ただし、経年劣化や開ける際の力加減により突然壊れるケースがあることに注意しましょう。今回、解説した内容を参考に、フラップタイプとグリップタイプのどちらが自分に合っているかぜひ考えてみてください。

トヨタ スポーツ800「ヨタハチ」は究極の大衆スポーツカー!? 脅威の燃費性能も実現した開発背景に迫る
旧車の魅力と知識 2024.07.18

トヨタ スポーツ800「ヨタハチ」は究極の大衆スポーツカー!? 脅威の燃費性能も実現した開発背景に迫る

ロングノーズ、ショートデッキにまとめられた個性的なスタイリングが魅力のトヨタ スポーツ800。「ヨタハチ」という通称までつけられるほど、多くのファンから愛されたモデルです。 スポーツカーを大衆の身近な存在にしたスポーツ800の、開発時の様子と魅力について詳しく紹介します。 コンセプトカーを見事に実車化したトヨタ スポーツ800 スポーツ800は、2シーターオープンスポーツという独特のスタイリングと大衆が手の届く価格を両立したモデルです。当初販売予定はなかったものの、コンセプトカーの反響が大きかったことが量産化につながりました。 大衆車であるパブリカをベースにしながらも、性能にこだわって設計されたスポーツ800の誕生背景を振り返りましょう。 大衆の手の届くスポーツカー スポーツ800は、高度経済成長期真っ只中の1965年に登場しました。「スポーツカーを大衆の手に」というコンセプトのもと、豊かになってきた若年層でも手の届く価格で発売されます。 安価に製造できた最大の理由は、大ヒットを記録したパブリカのコンポーネンツを多用したことです。ボアアップによって100ccほど拡大したものの、エンジンもパブリカのものを流用していました。 一方で、モノコックボディは専用設計され、外観からはパブリカの雰囲気を感じません。スポーツカーらしい個性的なデザインを実現しつつも、価格はわずか59万2,000万円に抑えられました。 スポーツカーとしての性能を追求 スポーツ800は、多くの部品をパブリカと共用した一方で、数々の専用パーツによってスポーツカーとしての性能がとことん追求されました。パブリカと同型で非力といわれたエンジンも、可能な限りのチューニングが施されています。 ボアを5mm拡大して排気量が697ccから790ccに向上し、ベンチュリーを拡大したキャブレターが2気筒それぞれに装備されるツインキャブレター仕様でした。また、クランクシャフト周りを強化して、圧縮比も8.0から9.0へと高められています。 さらに、スポーツカーとして重要な空力性能は、風洞実験を重ねて入念に研究開発されました。前面投影面積はポルシェ904とほぼ同等の1.33平方メートルを実現し、空気抵抗を示すCd値は0.30を上回る数値になっています。航空機の空力理論を徹底的に応用し、空気抵抗を限界まで抑えました。 話題を呼んだコンセプトカーを量産化 スポーツ800のもととなったのは、1962年の「第9回 全日本自動車ショウ」で公開されたパブリカスポーツです。乗降用のドアはなく、軽飛行機を思わせるキャノピーをスライドさせる機構は、多くの注目を集めました。発表当時はパブリカのイメージアップを図るためのショーモデルでしたが、高い注目度とスポーツカー人気を背景にトヨタは実車化に踏み切ります。 スライド式のキャノピーこそ実現しませんでしたが、有名なポルシェ911のタルガトップよりも1年半も早く着脱式のルーフを実装することでイメージを踏襲しました。さらに、ロングノーズと先端の丸目ヘッドライトといった、ボディデザイン全体はパブリカスポーツのスタイリングを見事に再現しています。 徹底した軽量化がレースでの結果にもつながった スポーツ800は、空力性能やデザインだけでなく、車重という点でもスポーツカーとしての性能を追求したモデルでした。徹底的ともいえる軽量化は、弱点の補強だけでなく燃費性能の向上にも寄与します。 レースで優勝という結果にもつながった、スポーツ800の軽量化について詳しくみていきましょう。 弱点を補った軽量化で高い運動性能を実現 スポーツ800はパブリカのエンジンを流用していたため、チューニングを施したものの非力さは否めませんでした。そこで、外装パーツを中心に、徹底的な軽量化が図られます。 ボンネット、ルーフ、トランクリッド、バンパー、シートパンなど細部に渡って、可能な限りアルミ合金が使用されています。さらに、リアウィンドウにアクリルパネルを使用するという徹底ぶりで、0-400m加速18.4秒を実現しました。市販車ながら、車重はわずか580kgに抑えられています。 また、軽量化は燃費面でも有利に働き、車体価格のみならず維持費の面でも庶民的な性能を実現しました。うまく走行をすると、市街地では18km/L、郊外では28km/Lにも達する燃費性能を発揮したようです。 ライバル車より非力ながらノーピットストップで優勝 優れた空力性能と燃費性能によって、スポーツ800はレースで輝かしい成績を残します。1966年に日本で初めて開催された長距離レース、第1回鈴鹿500kmで見事にワンツーフィニッシュを遂げました。 プリンス スカイライン、トヨペット コロナ、いすゞ ベレットといった大排気量の高性能車が数多く出走するなか、スポーツ800が優勝できた要因はピットストップを行わなかったことです。ライバル車は1回以上の給油ピットストップを余儀なくされましたが、スポーツ800はノーピットストップで完走。前を走るロータス エランの故障によって終盤にトップに躍り出たことから、信頼性の高さもアピールしました。 歴史的価値と希少性の高さは今も評価され続けている スポーツ800の累計販売台数は、わずか3,131台ほどです。パブリカスポーツの注目度やスポーツ800の価格と性能を考えると販売台数が伸びなかったのは意外な印象ですが、1960年代に2シーターという特殊な用途のモデルだったことを考えると妥当だったのかも知れません。 一方で、旧車ファンやスポーツカーファンからは、今も高く評価されています。トヨタにとってもスポーツ800は重要な存在なようで、復活プロジェクトを立ち上げ「スポーツ800 GR CONCEPT」として1台限定でレストアされました。 半世紀以上前のクルマで販売台数も少なかったために、300万円以上もの高額な買取価格がつけられることもあります。希少性と歴史的価値の高いクルマだけに、現存するスポーツ800は大切に乗り継いでいきたいものです。

トヨタ AE92 レビン/トレノは高い実力を秘めた名車だった! 商業的にも成功した時代背景も含めて振り返る
旧車の魅力と知識 2024.07.11

トヨタ AE92 レビン/トレノは高い実力を秘めた名車だった! 商業的にも成功した時代背景も含めて振り返る

5ナンバーサイズながら、ワイド&ローなスタイリングに迫力を感じるトヨタ AE92 レビン/トレノ。FFへのレイアウト変更、シリーズ初の過給機エンジン採用など大幅な刷新が図られたモデルです。 多くの若者の心を掴んだAE92の誕生背景と、魅力的な性能をたっぷりと紹介します。 大転換を図ったカローラ レビン/トレノ AE86の成功で地位を確立したレビン/トレノでしたが、AE92へのフルモデルチェンジで歴史的な大転換を図ります。また、「デートカーブーム」を追い風に、スポーツカー好き以外のファン層を切り開きました。 当時の時代背景とともにAE92が誕生した経緯について振り返ってみましょう。 プラットフォームを現代的なFFに刷新 AE92は、5代目レビン/トレノとして1987年に登場しました。最大の変更点は、駆動方式にレビン/トレノ史上で初めてFFが採用された点です。また、3ドアハッチバックが廃止され、ボディタイプは2ドアクーペのみに統一されました。一方で、レビンが固定式角目、トレノがリトラクタブルというヘッドライトの形状は踏襲されています。 スタンダードモデルのエンジンはAE86の4A-GEU型を横置きに搭載し、型式を「4A-GE」と改めました。1.6Lの直列4気筒DOHCエンジンで、最高出力120ps、最大トルク14.5kgを発揮します。また、先代と同様に、1.5Lの廉価版モデルもラインナップされました。型式はAE91で、キャブ仕様の5A-F型とインジェクション仕様の5A-FE型の2種のエンジンが用意されています。 若者のデートカーとして定着 AE92が登場した1980年代後半は、バブル景気を背景に若者の間でデートカーブームが巻き起こっていた時期です。日産 シルビア、ホンダ プレリュードといったスポーティでスタイリッシュなクルマが人気を博します。なかでも、トヨタ 2代目ソアラは、デートカーの代表格として憧れの的になっていました。 クーペタイプに統一されたAE92はソアラを小型化したかのようなスタイリングだったことから、「ミニソアラ」とも呼ばれました。新車時の販売価格が100万円台前半だったAE92は、高額なソアラに手の届かなかった若者の心を掴んだのです。 AE92になって大幅に進化したポイント 駆動方式がFRからFFに変更されたことで、落胆の声を上げるピュアスポーツファンも存在しました。しかし、AE92がテンロクスポーツを牽引するモデルだったことに間違いありません。 続いて、AE92になって進化したエンジン性能、レースでの活躍を紹介します。 最上位グレードのGT-Zはクラス最高峰 最上位グレードのGT-Zには、名機4A-G型エンジンにスーパーチャージャーを搭載した4A-GZE型エンジンが搭載されています。大幅に最高出力が引き上げられ、前期モデルでは145ps、後期型では165psにも達しました。ホンダの誇るVTECを搭載したB16A型エンジンの160ps(当時)を超え、クラス最高峰のパワーを実現しました。 また、足回りの設計も最上位グレードにふさわしく、GT-Z専用設計になっていました。前後のワイドトレッド化やリアアームの延長、ピロボールブッシュの採用など直進安定性を高める工夫が随所に施されています。また、外装面でも、ホイールアーチにモールが追加され、他グレードとの差別化が図られました。 マイナーチェンジで大幅な進化 AE92は、登場から2年後の1989年にマイナーチェンジを行いました。バンパーやグリルといったデザイン面での変更が目立ちますが、最大の違いはエンジン性能です。 実は、AE92登場当時の4A-GE型エンジンは、AE86の130psから120psに出力が絞られていました。しかし、マイナーチェンジによってハイオク仕様になり、最高主力140ps、最大トルク15.0kgmにまで引き上げられています。同型の自然吸気エンジンで、登場時から20ps、AE86最終型から考えても10psも最高出力を引き上げているのは驚異的です。 グループAでのシビックとの死闘と活躍 AE92は、AE86に続いてグループAでのレースに参戦しました。最小排気量クラスはVTECを備えたEF型シビックの独壇場で、事実1987年から1993年までの7年連続でメーカーズタイトルをホンダが獲得しています。 AE92は1988年シーズンの2戦目から投入されましたが、当初はシビックに阻まれて思うような成績は残せませんでした。しかし、富士スピードウェイで開催された最終戦のインターTECで、ついにシビックを打ち破ります。トムスの走らせる「ミノルタカローラレビン」が、クラストップ、総合5位という成績を収めました。 続く1989年も全体としてシビックの優位は変わらなかったものの、つちやエンジニアリングの「ADVANカローラ」が2勝と2度の表彰台を獲得してドライバーズタイトルの座に輝きます。さらに、1990年にもドライバーズタイトルを獲得して2連覇を達成。シビック優勢のなかでのまさに死闘と呼べる戦いでしたが、AE92は確実にその実力を証明しました。 レビトレ史上最も売れたAE92 FRスポーツだったことと、ドリフトドライバーや漫画の影響などからAE86が異常な人気だったため、今振り返るとAE92はやや地味な印象を受けます。しかし、実はAE92は、レビン/トレノ史上で最も売れたモデルです。 バブル景気やデートカーブームといった時代背景の影響もありましたが、クルマとしての高い実力が備わっていたからこその成功でしょう。AE92へのフルモデルチェンジでは、スーパーチャージャーやハイオク仕様による大幅な出力性能の向上、格上のソアラのようなスポーティでスタイリッシュなエクステリアデザインといった点など、しっかりと作り込まれました。マイナー車種と思われがちなAE92ですが、改めてその価値を見直したいところです。

定年間近のクルマ好きの方から「定年後にポルシェ911を買いたい」と聞かれてマジレスした話
旧車の魅力と知識 2024.07.01

定年間近のクルマ好きの方から「定年後にポルシェ911を買いたい」と聞かれてマジレスした話

企業に勤める方の定年退職の年齢は、60歳以上であれば各社ごとに任意に決定できるのだという。現実的には65歳で定年退職という流れが多いのだろうか。 私自身、自営業なので定年はない。気力と体力があれば90歳まで働いてもいいし、極論をいえば明日にでも定年してしまってもいいくらいだ(実際にはできないけれど)。 時短やワークライフバランスといったことが叫ばれて久しいが、実際にはいまだに夜遅くまで残業している方も少なくないはずだ。なかには残業代が稼げるから、遅くまで働くのは苦じゃないという方もいるだろう。こうして、家族のため、そして自分自身のため、文字どおり身を粉にして働いてきた方も多いと思う。 ■ポルシェ911が欲しいと語る仕事関係で知り合ったKさん(64歳) もうすぐ定年退職を迎え、これから先は少し時間に余裕ができる。生活に余裕があれば憧れの世界に足を踏み入れてもいいだろう。仕事関係で知り合ったKさん(64歳)と打ち合わせで顔を合わせたとき「時間に少し余裕ができるし、退職金を少し使わせてもらって憧れだったポルシェを買ってみたいんだけどどう思う?」と相談を受けた。 Kさんに「予算はいくらくらいですか?」と尋ねると「600万円くらいかな」とのこと。 予算が600万円ということは、キャッシュで新車のポルシェを買うのは厳しい。ただ、この600万円を頭金にして会社員であるうちにローンを組めば新車のポルシェが手に入るかもしれない。さすがに新車は高すぎるというのであれば、高年式の認定中古車という手もあるだろう。 以前からKさんからクルマ好きと伺っていたので、すでにモデル名を決めているかもしれないと思い「ポルシェのなかで、どのモデルはが欲しいんですか?」と尋ねてみた。すると「そりゃあキミ、911に決まってるじゃないか」とのこと。やはりそうか。多少なりともスーパーカーブームの洗礼を受けているだろうし、「ポルシェといえば911」という強烈な刷り込みを受け続けてきた世代でもある。 「ボクスターやケイマンはいかがですか?」とKさんに問うてみると「オレは911一択」といい切った。もはや打ち合わせはどこへやら。普段の取材(オーナーインタビューモード)みたいだなと思いつつ、Kさんにこれまでの愛車遍歴について伺ってみると…。「KP61型スターレットや、A70型スープラ、FD3S型RX-7などを経て、家族して子どもが産まれてからは日産ラルゴやエルグランド、トヨタ エスティマ」などを乗り継いできたということを初めて知った。 都内在住でさすがにセカンドカーは持つのは厳しく、家族のために事実上クルマの趣味を封印してきたのだという。現在は子どもたちも独立して手が離れ、Kさんご自身も定年間近。奧さんに「退職金を少し使わせてもらって憧れだったポルシェが欲しいんだけど」と、それとなく相談してみたところ「あなたが欲しいなら好きにすれば」といった具合に好意的な回答が得られたそうだ。最大の難関をクリアし、いよいよ本腰を入れて理想の911を探してみようと思っていたところなのだという。 ■ポルシェ911の認定中古車は1500万円〜という現実 ここでふと気づいた。Kさんはこれまで国産スポーツカー、そしてミニバンを乗り継いできている。つまり、1度も輸入車を所有したことがない。それならば少しでもリスクが低いと思われる認定中古車がいいのだろうか…と思い、スマホを取り出し、カーセンサーで調べてみた。 すると…600万円〜700万円の枠で911の認定中古車を調べてみたところ、なんと1台もヒットしない。上限を800万円に引き上げてみてようやく1台といったありさま。さらに、思い切ってリミッター(?)を解除してみると、ほぼ1000万円スタートだということが判明。そこから画面をスクロールしていくと…、事実上1500万円以下ではほとんど選択肢がないことを思い知らされた。これにはさすがのKさんもガックリ。 仮に600万円の予算をほぼすべて頭金としてつぎ込み、車両本体価格が約1500万円のポルシェ911カレラ(991.2)を手に入れるとしよう。60回ボーナス払いなし、均等払いの残価設定ローンで組んだとして、月々の支払いが約95,000円と算出された。 「残価設定ローンで組んでも毎月約10万かぁー」とKさん。どうやら勤めている企業を定年退職したあと、収入が減るのは避けられないようだ。すでに住宅ローンは完済しているというKさんだが、ため息をつくのも無理はない。虎の子の600万円を頭金に充て、さらに残価設定ローンで毎月約10万円。しかも60回で完済ではなく、5年後には残債分をどうするのか決断しなければならない。残債をさらにローンを組んで乗りつづけるか、新しいクルマに入れ替えるか、売却して残債をゼロにするか、そして一括返済するかの4択だ。 ■予算600万円で買えるポルシェ911といえば 気を取り直して600万円前後で買える911を探してみると、996型の上限と997型の最安値の個体がクロスする価格帯だということが分かってきた。 ここでKさんに「911のどのモデルが欲しいのですか?」と尋ねてみた。すると「本当はカレラ2のMT(964型)が欲しいんだけど、空冷911が手が届かない価格帯になっていることは何となく知っていた」という。「自分の買える範疇でいいので、人生において1度はポルシェ911に乗ってみたい」というのが本音だそうだ。 600万円の予算をすべてつぎこんで、997型であれば15年落ち前後、996型であればほぼ20年落ちのポルシェ911を手に入れることになる。購入後、整備費用の予算が0円ではあまりにも心もとない。仮にトラブルに見舞われなかったとしても、1点点検や車検時に「予防整備」としてさまざまな部品を交換することになる確率が高い。ましてや、ディーラーに整備や車検を依頼したら、天文学的な見積もり額にKさんが泡を吹きかねない。 ■結局、どうしたかというと・・・ つい1時間ほど前のハイテンションはどこへやら。すっかり意気消沈してしまったKさんから「どうすればいいと思う?」と、あまりにも直球過ぎる問いに、思わず言葉に詰まった。「買えばなんとかなりますヨ」なんて無責任なことはいえない。かといって「さすがに厳しいものがありますよね・・・」と、ここで引導を渡してしまうのもいかがなものか。 改めてKさんに問うた。「ボクスターやケイマンはアリですか?」と。するとKさん「いや、911に乗りたい!」と、ここだけはどうしても譲れないポイントらしい。 結局、どうしたかというと“911に乗りたいという意思は譲れないわけですし、「600万円(プラス整備費用の予備予算)で買える911」を選ぶか「600万円を頭金にして、残価設定ローンで認定中古車を買うか」。まずはKさんご自身でソロバンをはじいてみて、導きだした結論を奧さんに話して相談してみたらどうですか?”と伝えることにした。 いやー、これは厳しいですよと伝えるのは簡単だ。しかし「乗らないで後悔するより、乗ってみて後悔する」方が、少なくともKさんにとってシアワセな第二の人生が送れるのではないかと感じたからだ。 たとえ1年、もしくはわずか半年の所有期間であったとしても「ポルシェ911を所有できた」という事実は変わらない。売却するときに損をしてしまうかもしれないが、そのリスクを怖がっていたら永遠に欲しいクルマは手に入らない。かといって、ここから数年間貯金をして多少なりとも頭金を増やせたとしても、その分、いまよりは体力や身体能力が衰えているだろう。 せっかく念願のポルシェ911を手に入れたのに、体がついていかないとしたらそれこそ悲劇だ。さらに、長年勤めた企業を定年退職しているのだから、そもそもローンが通らない可能性も高い。 その後、Kさんから「ポルシェ911を買った」という連絡はない。SNSにもアップされている様子がないので、いまだに迷っているのだろうか。それとも奧さんが止めたのかもしれない。Kさんがいずれ運転免許を返納するとき「納得のいく終わりかた」になることを願うばかりだ。 *Kさんには許可をもらって記事にしています。 [画像・Porsche ライター・撮影/松村透]

時代を先取りしすぎたSUV!?一度見たら忘れられない いすゞ ビークロスの魅力と中古車市場
旧車の魅力と知識 2024.07.01

時代を先取りしすぎたSUV!?一度見たら忘れられない いすゞ ビークロスの魅力と中古車市場

スタイリッシュなSUVは今でこそ数多く販売されていますが、1997年に登場したいすゞ ビークロスは、時代を先取りした先進的なデザインで大きな話題を呼びました。曲線を多用したうねるような外観と、SUVとしても文句のなしの力強い走破性を併せ持ち、今でも根強い人気があります。 今回は、SUVの歴史のなかでもひときわ異彩を放つビークロスの魅力と、中古車市場について解説していきます。 ほぼコンセプトカーどおりの姿で登場したビークロス いすゞ のスペシャリティカーSUVとして、1997年4月に発売したビークロス。発売のきっかけは、1993年の第30回東京モーターショーに出品したコンセプトカー「VehiCROSS(ヴィークロス)」であり、近未来的なデザインで当時注目を浴びました。 その特徴的な造形が人気を博したことで、いすゞはヴィークロスの市販化を決定。ビークロスと名前を変え、市販車でありながらコンセプトモデルとほぼ変わらない姿で登場しました。さらに車体ベースを4WDのジェミニから、ビッグホーン・ショート型に変更したことで車体サイズは拡大。市販モデルで大型化したビークロスは、コンセプトモデル以上のインパクトを発揮していました。 通常、市販モデルは外観デザインが控えめになることがほとんどですが、ビークロスはほぼコンセプトどおりの姿で登場したことで、いまでも人々の記憶に残るSUVとして、車史にその名を残しています。 先進的すぎるデザインで後方視界に難あり? コンセプトモデルから大型化したビークロスのサイズは、全長4,130mm×全幅1,790mm×全高1,710mm。開発は欧州で行われ、デザインは当時いすゞのデザイナーだった中村史郎氏と、のちにインフィニティのロンドンスタジオのトップに就任するサイモン・コックス氏が担当していました。 ビークロスのテーマは「ワイルド&フレンドリー」であり、力強い走破性を持ちながらも、デザインは先進的で、どこか愛らしい雰囲気が取り入れられています。丸くねじれたようなフォルム、ボディ下半分を覆う樹脂パネル、スペアタイヤを内側に内蔵したバックドアなど、目につく全てが斬新なスタイリングです。 しかし、デザインを優先させたことで室内からの後方視界は悪化。それを解消するため、ビークロスはバックアイカメラを標準装備し、これは乗用自動車としては初の試みでもありました。         見掛け倒しじゃない確かな走破性能 ビークロスは最高出力215ps、最大トルク29.0kgf・m/3,000rpmを発生するビッグホーンと同型の3.2リッターV6エンジンを搭載。いすゞのSUVとしては珍しく、ディーゼルエンジンの設定がなくガソリンエンジンのみとなっていました。 駆動は前後輪のトルク配分制御システムを搭載したパートタイム4WDを採用しており、エンジンの力強さも合わせて、十分な悪路走破性を与えられています。 足回りはフロントにダブルウィッシュボーン、リアが4リンク式コイルサスペンションを採用し、ショックアブソーバーはラリー用にチューンされたものを使用しているため、オンオフ問わず安定した走行性を発揮します。 中古車在庫は少なく、すでに希少車の域に そんなビークロスですが、日本国内での中古車市場はどうなっているのでしょうか。原稿執筆時の2021年11月時点で、ビークロスの市場価格を大手中古車サイトで調べてみました。 中古車サイトでのビークロスの在庫台数はわずか3台と少なく、希少性の高い車だということがうかがえます。車体価格は安いもので、1997年式109,000km走行の個体が148万円。最高値では1998年式79,000km走行で218万円。ビークロスの市場価値は新車価格の295万円(ベースグレード)に達するほどではありませんが、中古車としては比較的高プライスの部類に入ります。 また1997年~2001年の販売期間中、約1800台しか流通していないということもあり、ビークロスの希少価値を高めているのもしれません。 まとめ コンセプトモデルからほとんど姿が変わらないという、まさかの状態で販売されたビークロス。 未来感あふれた斬新な姿は多くの人に驚かれた一方、その奇抜さは当時のクロカンファンにヒットし、今でも根強い人気を持っています。そんなビークロスも現在は台数が減っており、中古車の価格もそれなりの値段になっているのが現状です。 悪路走破性が高く、人とは違ったSUVが欲しいという方にはビークロスは非常におすすめですが、今や希少車となっているこの現状なので、購入を考えているならば早めの行動が重要になってくるでしょう。 [ライター/増田真吾]

ホンダ EF9型グランドシビックがVTECの凄さを証明! ホットハッチの定番車種にまでのぼりつめた魅力に迫る
旧車の魅力と知識 2024.06.25

ホンダ EF9型グランドシビックがVTECの凄さを証明! ホットハッチの定番車種にまでのぼりつめた魅力に迫る

国産ホットハッチといわれて、ホンダ シビックを思い浮かべる人は多いのではないでしょうか。今回紹介するEF9型シビックは、ハッチバックのみならずライトウェイトスポーツにおいての地位を確立するきっかけになったモデルです。高回転で響き渡る心地よいVTECサウンドと運動性能の高さが、多くのファンの心を掴みました。 シビックとして初のVTECを搭載した、EF9の歴史と魅力をたっぷりと紹介します。 国産ホットハッチ最強のEF9 グランドシビックの愛称で呼ばれるEF型シビックのうち、EF9は特に注目を集めたモデルです。可変バルブタイミング機構を同クラスでいち早く取り入れ、VTECの実力と名前を世間に知らしめました。 まずは、EF9の誕生やVTECの高いパフォーマンス、レースでの結果を振り返ってみましょう。 EF9はシビック初のVTEC搭載車種 1987年に4代目として登場したEF型は、半世紀以上続くシビックの歴史のなかでも特にエポックメイキングだったモデルです。モデルチェンジから2年後の1989年に、シビック初のVTECエンジンを搭載したEF9が追加されました。 VTECエンジンは、今やホンダの代名詞ともいえるハイパフォーマンスエンジンです。バルブタイミングとリフト量の可変機構によって、高回転での出力と力強い低中速域の加速を両立しています。VTECが初めて搭載されたのは2代目インテグラで、発売はEF9登場と同年の1989年です。つまり、ホンダはシビックへの搭載も強く意識して、VTECの開発を進めていたのではないでしょうか。 シビックの地位を一気に高めたVTEC EF9に搭載されたエンジンは、1.6L直列4気筒の名機B16A型です。可変バルブタイミング機構のVTECを備え、最高出力160ps、最大トルク15.5kg・mという、現在のスポーツモデルと比べても見劣りしない圧倒的なスペックを誇ります。わずか990kgの車重(SiR)ということもあって、まるでターボ車のような爆発的な加速力を体感できました。VTECを搭載したEF9によって、単なる大衆車だったシビックは国産最高峰ホットハッチとしての地位を確立したといえます。 VTECとは、給排気バルブの開閉タイミングとリフト量を変えることで、エンジン特性を劇的に変化させる可変バルブタイミング機構のことです。具体的には、バルブを動作させるカムを一定回転数以上で切り替えることで、チューニングエンジン並みのパフォーマンスを実現しています。他社の同クラスでもさまざまな可変バルブタイミング機構が採用されますが、いずれも1990年代以降だったこととVTECほど過激な挙動をするエンジンはありませんでした。 レースでの活躍によってさらに人気を集めた EF9は、市販車ベースのグループAで争われるJTC(全日本ツーリングカー選手権)に登場翌年の1990年から参戦します。当初はVTECを搭載していませんでしたが、信頼性が確立されるとすぐにVTECを投入。2位のトヨタを6ポイント差で退けて、参戦初年度からメーカータイトルを獲得しました。 2年目の1991年にもメーカータイトルを獲得し、2連覇を達成。さらに、同年にはドライバーズタイトルも獲得しました。速さと信頼性の高さを過酷なレースで証明したことも、EF9の人気が高まった理由です。 EF9に詰め込まれたホンダのこだわり 数あるホンダ車のなかでもっとも長く同一車名のまま販売され続けているシビックは、ホンダにとって特別なモデルです。とりわけ、今やシビックの代名詞ともいえるVTECを初めて搭載したEF9には、ホンダのこだわりが詰め込まれていました。 後のタイプRにもつながったといわれる、EF9のこだわりポイントを2つ紹介します。 EF9に設定された2つのグレードSiRとSiRⅡ EF9には、SiRとSiRⅡの2種類のグレードが設定されています。名称だけを見ると単純にSiRⅡのほうが後から登場した発展型という印象を受けますが、実はこの2グレードは同時に投入されました。 SiRⅡは最上位グレードらしく、パワーウィンドウや電動ミラー、電動サンルーフやABS(オプション扱い)といった豪華装備が備えられていました。一方のSiRは、パワーステアリングすらついていないという、最上位グレードとは思えないほどの簡素な仕様です。 しかし、実はこのSiRの存在こそがホンダのこだわりの現れで、競技車ベースとして設定されていました。SiR最大の特徴は車重の軽さで、1,050kgに達するSiRⅡの車重に対して、余計な装備を極限まで削り落とした結果わずか990kgに抑えられています。ホンダが誇るVTECエンジンの実力を最大限に感じてほしいという、開発側の意図が込められているのでしょう。 タイプRにつながる系譜の源流 実は、EF9こそが、8年後に発売された初代シビック タイプRの基礎を作ったといわれています。エンジンはEF9に搭載されたB16A型の発展型で、ダブルウィッシュボーン方式という足回りもEF型へのモデルチェンジ時に採用されたものです。さらに、EF9の登場に合わせて、ボディワークにも変更が加えられています。 EF9のデザインでもっとも大きな変更点は、フロントバンパーやヘッドライトの形状だといわれています。しかし、ボンネット形状の変更こそが、EF9の特徴だといえるでしょう。従来は左右のフェンダーからつながるラインに対して、ボンネット中央部が凹んだ形状になっていました。しかし、EF9では、中央部のほうが盛り上がったデザインに変更されています。エンジンヘッドの大きい、B16A型エンジンを搭載するためだったといわれています。また、先代から続いていた、ボンネット左端のパワーバルジも廃止されました。 初のシビック タイプRの型式名も、EF9からの系譜であることを示唆しています。シビックで初めてタイプRが設定されたのは、6代目のEK型でした。EK型タイプRの型式はEK9、EF9と同様に「9」が割り振られています。EG型の最高グレードSiRⅡの型式がEG6だったことを考えると、EK9型タイプRはEF9の系譜を直接引き継ぐモデルだといえるのかも知れません。 混沌とした時代に明確な立ち位置を確立した名車 1990年代のライトウェイトスポーツの代表車種としてシビックが定着したのは、間違いなくEF9が大きな功績を残したためです。トヨタ レビン/トレノやMIVECエンジンが話題だった三菱 ミラージュといった強豪がひしめくなかにあって、圧倒的な実力差を見せつけました。後のEG6やEK4、そしてタイプRのEK9が成功したのは、EF9で実現したVTECの爆発的な加速力があったからこそでしょう。 EF9は、クルマの歴史的価値を認める旧車ファンのみならず、競技車輌を求めるモータースポーツ愛好者からも高く評価されています。設計の古さは否めませんが、軽い車重とシンプルなボディ構造から、チューニングベースとして最適なモデルです。ホンダVTECの元祖ともいえるEF9シビックの加速力を、機会があればぜひ一度味わってみてください。

BMW E92型M3は伝統のシルキーシックスを捨てた?! シリーズ唯一のV8エンジン搭載モデルの魅力に迫る
旧車の魅力と知識 2024.06.24

BMW E92型M3は伝統のシルキーシックスを捨てた?! シリーズ唯一のV8エンジン搭載モデルの魅力に迫る

初代登場から20年以上を経て4代目に達したBMW M3は、8,000回転オーバーという超高回転まで一気に吹け上がる自然吸気エンジンを搭載した魅力的なモデルです。伝統の直6エンジンではなく、シリーズ初のV8エンジンの官能的なサウンドに多くの人が魅了されました。 今回は、V8エンジン以外にも独自の進化を遂げた4代目M3のクーペモデル、E92型の魅力を紹介します。 独自性の高かった4代目M3 現在6代目まで進化したM3ですが、4代目のE92型は歴代モデルのなかでも独自色の強かったモデルです。唯一のV8エンジン、ベースモデルからの大幅な刷新と、チューニングを担当したBMW Mのこだわりが詰まっていました。 先代から7年ぶりの大幅な刷新をして登場した、E92型4代目M3の誕生を振り返ってみましょう。 V8エンジンの搭載で大幅刷新したM3 M3は、主力車種の3シリーズをベースに専用のチューニングを施したモデルです。レースへの参加条件(ホモロゲーション)取得のために、初代E30型が1985年に制作されました。E92型は、M3の4代目として2007年に登場します。3シリーズで初めてV8エンジンを搭載するなど、ボディからパワートレインに至るまで大幅刷新されました。 直6エンジン、いわゆるシルキーシックスを伝統としてきたM3だけに、E92型でのV8エンジン搭載は画期的なことです。最高出力は先代E46の346psに対して、420psにまで引き上げられています。伝統を途切れさせてでも性能を向上させたいという、BMWのこだわりの現れといえるでしょう。 ボディの大部分もM3専用に開発 M3の「M」とは、3シリーズにチューニングを施したBMWのレースやモータースポーツの研究開発部門「BMW M Motorsport GmbH」(通称BMW M)の名称が由来です。E92型 M3で進化したポイントは、初のV8エンジンだけではありません。BMW Mが培ってきたノウハウが、惜しげもなく注ぎ込まれました。 特にボディには、カーボン製のルーフ、エアアウトレットを配したアルミ製ボンネット、巨大なエアインテークを備えたフロントスカートなど、ベースの3シリーズと比較して実に80%もの新開発パーツが盛り込まれています。さらに、迫力のある4本出しマフラーや330km/hまで表示されるスピードメーターなど、Mモデルとしてのキャラクターを打ち出すことに余念がありません。 E92型がM3最後のクーペにして唯一のV8エンジン搭載車 4代目M3は、実は歴代M3のなかでもメモリアルな1台です。初のV8エンジン搭載で大きな話題を呼びましたが、5代目M3では伝統の直6エンジンに回帰します。また、次世代のクーペモデルは、4シリーズに移行。結果的に、M3シリーズ唯一のV8エンジン、最後のクーペという特別な存在になりました。 なお、4代目M3では、セダン(E90型)と日本未発売のカブリオレ(E93型)という、クーペモデル以外のボディタイプも展開されました。セダンは5代目M3以降も継続しましたが、カブリオレもクーペと同様に4シリーズに移行したためM3としては最後のモデルです。 M3最後のクーペにふさわしい圧倒的な走行性能 セダンやカブリオレも販売されていた4代目M3ですが、世代を象徴するのはやはりE92型クーペです。4シリーズへの移行に伴って結果的にM3最後のクーペになりましたが、圧倒的な走行性能の高さで存在感を放ちました。 ここからは、E92型の高い走行性能を紹介します。 サーキット走行にも耐えうる走行性能 シリーズ初にして唯一のV8エンジンS65B40型は、最高出力420ps/ 8,300rpm、最大トルク400N・m/3,900rpmを誇ります。また、特筆すべきは最高出力を発揮する回転数で、8,300回転という超高回転型の自然吸気エンジンというのもE92型の魅力です。車重が1,630kgもあるにも関わらず、0-100km/h加速はわずか4.8秒、最高速度は250km/hにも達します。 さらに、レース部門を担当するBMW Mが開発しただけあって、リミッターを解除することで最高速度は280km/hまで引き上げることも可能でした。ただし、約40万円のオプション料金の支払いと、「ハイスピードドライバーズトレーニング」という講習への参加が条件とされていました。 走りにこだわってドライブトレインを刷新 E92型の俊敏な走りをさらに向上させたのは、7速M DCT Drivelogic(エム・ディーシーティー・ドライブロジック)への変更です。先代の6速AMT(セミオートマチックトランスミッション)、SMGⅡに代わって装備されました。 エンジンとトランスミッションを物理的に接続するデュアルクラッチを採用することで、流体でトルクを伝達するトルクコンバーター式のATよりもロスのないダイレクトな操作感を得られます。なお、7速 M DCTDrivelogicは、セダンとカブリオレでも選択できました。グランツーリスモという位置づけながら、ピュアスポーツと肩を並べるほどのダイレクトな操作感こそが4代目M3の真骨頂です。 商業的な成功は微妙だったが希少性の高まりとともに再評価 新時代への幕開けを予感させたE92型M3ですが、商業的には大成功と呼べるモデルではありませんでした。販売台数は先代のE46型の8万6,000台に対して、クーペ、セダン、カブリオレの3種を合わせても6万6,000台ほどにとどまっています。 シルキーシックスという伝統の直6エンジンに代わって搭載されたV8エンジンに賛否両論あったことも、販売台数の伸びに少なからず影響したのかもしれません。実際、5代目のM3にはV8が積まれることはなく、直6に回帰しています。 しかし、販売台数が少なかったということは、旧車としての希少性が高いということです。また、M3としては画期的なV8エンジン、最後のクーペモデルという点を考えてもマニアの心をくすぐるモデルといえます。希少性の高まりからE92型の中古車相場がどう動くのか、ぜひ注目してみてください。

そもそも「職場の上司や先輩よりイイクルマに乗るのは罪なのか?」という話
旧車の魅力と知識 2024.06.23

そもそも「職場の上司や先輩よりイイクルマに乗るのは罪なのか?」という話

現代よりもはるかに年功序列が厳しかった昭和の時代。社長がクラウンであれば、管理職はマークIIに、そして平社員はカローラ乗るべき(またはそれぞれのクラスに属するモデル)といった暗黙のルールがあった。 会社のゴルフコンペに上司より高級なクルマに乗っていこうものなら非常識呼ばわりされ、その後もネチネチと嫌味をいわれた。 終身雇用かつ企業戦士が是とされた昭和の時代を生き抜き、無事に定年退職した父から聞いた話だ。この話を聞いたときはまだ学生だったので、その意味がきちんと理解できなかったように思う。 ■社長、ポルシェ911が欲しいんですけど・・・ やがて社会人になり、勤め先の社長の愛車はメルセデス・ベンツ190Eディーゼルターボだった。当時は「なんでベンツなのにディーゼルなの?」と聞かれることも多かったそうだ。 かつてウィンドウフィルムを施工するショップでアルバイトした際に、納引き(納車引き取り)で何度もメルセデス・ベンツを運転したが、ディーゼルエンジン仕様は1度もなかった。それだけに、とても新鮮だった記憶がある。 打ち合わせなどのお供で何度も社長の190Dを運転させてもらったが、バブル期に「小ベンツ」なんて揶揄されていたのが不思議なくらい心地良いクルマだった。 あるとき「キミは何のクルマが欲しいの?」と社長に尋ねられ、ついうっかり「ポルシェ911が欲しいです」と答えてしまった。自動車関連業の職場とはいえ、かつて父から聞かされた「平社員はカローラ(またはそのクラスに属するモデル)という暗黙のルール」が不意に蘇った。まずい。怒られるかな…。 すると社長は「それはいい!買いなよ!」と背中を押してきた。おいおい、いいのかよ。あとで知ったのだが、当時の勤め先の社長は自分よりも社員が「イイクルマ」に乗ることについてとても寛容な人だった。そして、その言葉を真に受けて、20代半ばで60回ローンを組んでナローポルシェを手に入れてしまった。 いまでこそ価格が高騰してしまったが、25年くらい前は国産スポーツカー並み(またはそれ以下)の価格で買えたのだった。先のことはともかく、とりあえず「買うだけなら何とかなる」時代だった。それがいまや…。とはいえ、月々のローンは5万円を超えたので、薄給の身には結構きつかったけれど。 昭和の時代の「平社員はカローラという暗黙のルール」なんてとうの昔に崩壊したと思いきや、令和6年となった2024年現在でも「ダメなものはダメ」らしい。つまり、一部の世界では根本的に何も変わっていないということだ。 ■どうしても欲しいなら完全プライベートで 勤め先の社長や上司が理解ある人であれば問題はないのだが、そうでない場合、あるいは業界の慣習的に許されないこともあると思う。電車通勤が可能な職場であれば「クルマは趣味」に徹することもできるだろう。しかし、クルマ通勤でなければ通えない場所に職場がある場合、「足車」が必要になってくる。 5万円で友人知人から譲り受けた10万キロオーバーの軽自動車でも何でもいい。そこから中古パーツを駆使して自分好みに仕上げたり、痛んだところを直していく過程も楽しかったりする。もともと安く買ったクルマだけに、趣味車では躊躇してしまうようなDIYも楽しめる。そして、気軽に手を加えられる点が何よりの魅力だ。 そして本命の趣味車だが、もし所有している事実を職場の人に知られたくないなら、SNSにアップするのは気をつけた方がいい。どこで誰が見ているか分からない。鍵アカウントは必須かもしれない。可能であればクルマ関連の投稿は避けた方が無難だ。面倒だけど、それくらい万全の態勢で臨まないとうっかり誰かに知られてしまうからだ。 とはいえ、現実の世界でも気を抜けない。出先でばったり職場の同僚や上司に会ってしまう可能性だってある。もはやこれはもう運の世界だが…。もしばったり遭遇したとき、例えば「○○○くん、ベンツ乗ってんの?」と聞かれ、咄嗟に「いえいえこれは親のクルマを借りてます」と返せるよう、日頃から頭のなかでシミュレートしておいてもいいかもしれない。 ■とはいえ、若いときにしか乗れないクルマがある なかには「そこまでしてでも乗りたいのかよ」と思う人がいるかもしれない。そこまでしてでも乗りたいのよ。足まわりガチガチ、ロールバー&フルバケットシート、エアコンレスのクルマなんて若いときでなければ楽しめない。アラフォー世代にでもなれば、フルバケットシートのままで仮眠なんてできなくなる(どうしても眠いときは別だが、起きたあとがツラい)。 あとは時間の使いかたもそうだ。仕事が終わり、夜「ふとドライブしようかな」と、あてもなく走るなんて行為もいずれおっくうになる。ましてや、家庭を持ったら若くしても夜な夜なドライブなんてほぼ不可能だと思った方がいい。 湾岸ミッドナイト3巻で平本洸一が妻である恵に発した 「も…ッ、もう一度、もう一度走っちゃダメか…?あの金使っちゃダメか…?本当にこれで最後だから…ゴメ…ン。ずっとふりきれて…なかったんだ」 のセリフを知っている人もいるだろう。どうやら作品のなかで2人は離婚しなかったようだが、現実はそうは甘くない。身重の妻がいるにもかかわらず、貯金に手を出して数百万円単位のクルマの買うなんてもってのほかだ。ましてや、そのクルマで最高速トライアル(バトル)をするわけだから、何の見返りもない単なるハイリスクな行為でしかない。無事にバトルを終えて帰宅できたとしても、不安のあまり妻が流産してしまう可能性だってある。 この時点で三行半を突きつけられるか、どうにか離婚を回避できたとしても、奧さんに一生頭が上がらなくなる(むしろ、その程度で済めば御の字だ)。 ■まとめ:いちばん怖いのは男の嫉妬かもしれない SNSなどで「20代でフェラーリ買っちゃいました。界隈の皆さんよろしくお願いします」という投稿を見つけて、コメントこそしないけれど、心のなかで頑張れーというエールを送っている。そのいっぽうで、聖人君子ではないので、正直うらやましいし、一部は親ローンでしょ?みたいな嫉妬心がないわけ…ではない。 ただ、その心境をありのままコメントする行為はまったく別の話だ。「それをいってしまったらおしまいよ」というやつだ。 昭和の時代の「平社員はカローラ」も、俺の方が偉い、立場が上という事実を内外にアピールするための手段にすぎない。社員が上司よりイイクルマに乗れるほど高給なんだと知らしめることにもなると思うのだが…。いつの時代も、いちばん怖いのは男の嫉妬かもしれない。 [ライター&撮影/松村透・画像/Mercedes-Benz、Porsche、AdobeStock]

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