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はじめまして、輸入車・旧車を専門とするライターの松村透です。
いくつかの自動車専門メディアで執筆しておりますが、この旧車王マガジンでは旧車の所有者に取材し、旧車を愛する方々の「そうそう、あるある」をお伝えしていきたいと思っています。
5回目となる今回は「クルマに選ばれしオーナー」とその愛車の物語をお届けします。
また本企画である、決して手放すつもりのない愛車と「もしも別れることになったら」についても考えてみます。
オーナープロフィール
久我 玲士です。年齢は23歳(取材時)、職業は会社員です。重機の整備や販売を行う企業に勤めています。
所有するクルマは、1993年式メルセデス・ベンツ SL280(R129)です。
所有歴は半年、オドメーター上はおよそ5.8万キロです。*イギリス仕様なのでマイル表示です。
クルマが好きになったきっかけは覚えていますか?
実はクルマが好きになったの高校生のときなので、割と最近なんです。
高校3年生だった12月のある日、父が不意に「いいクルマがあるんだけど」と見せてきたクルマがトヨタ スープラ(A70型)でした。
父が若いときに、タルガトップのスープラに乗っていたことを知っている母親も「買っちゃいなよ」的なノリで後押ししてきて(笑)。
父親が「オマエも乗るか?乗るんなら買おうよ」といってくれたこともあり、「俺もスープラに乗りたい!」って答えたんです。
ここまででわずか5分たらずのできごとです。
ただ、この時点ではクルマ熱はそれほどではなくて、実際に火がついたのはスープラが納車されたときですね。
エンジンに火が入った瞬間の音を聴いて「これ、俺のクルマなんだ!」と気づいた瞬間、一気に「目覚めた」ことを覚えています。
その後はテンションがあがりすぎてしまい、声が出なくなるほどでした(笑)。
スープラが納車されたのはまだ運転免許を取る前だったこともあって、父親の運転で高校の卒業式にも送迎してもらいました。
スープラに乗ってきたこともあってさすがに友だちもびっくりしていました(笑)。これが5年前、2021年のことです。
割と最近じゃないですか!ということは、幼少期はというと・・・?
小さい頃、フェラーリ テスタロッサや512TR、光岡オロチのトミカを買ってもらったり、父親の友だちが所有する日産スカイラインGTS-R(R31型)に乗せてもらったことは覚えています。
頭の片隅にクルマがある…そんなレベルでした。
むしろ、機動戦士ガンダムや装甲騎兵ボトムズといったロボットアニメやプラモデルに関心がありましたね。
プラモデルにも興味があって、組み立て書の分解図や解説を夢中になって呼んでいました。
いまの仕事にも通じるところがありますが、基本的にメカっぽいものが好きなんでしょうね。
久我さんのこれまでの愛車遍歴を教えてください
父親と共同所有している1992年式トヨタ スープラツインターボR、1999年式 BMW Z3ロードスター2.2i エディション2、そしてこの1993年式メルセデス・ベンツ SL280です。
スープラは実家にあるため、手元にあるのはBMW Z3とメルセデス・ベンツ SL280の2台です。
あとは親族から譲り受けた1978年式いすゞ117クーペXEです。
この117クーペはレストアベース車で、時間の合間を見て少しずつレストアしています。
ご自身で最初に手に入れたのはBMW Z3だったんですね
一人暮らしをはじめることになったとき、スープラに関しては、私よりもクルマに精通している父親に任せることにしました。
そうなると新天地でも乗れるクルマが欲しなりますよね。
そのときの条件が「FR・2ドア・直6エンジンのクルマ」でした。
トヨタ セリカXX(厳密にいえば3ドアですが)やソアラ、MG-Bも考えたんです。
そんなとき、母親から「BMW Z3なんていいんじゃない?」と提案されたんです。
小さい頃からBMWというメーカーのクルマがあることは知っていたんですが、当時はキドニーグリルがカッコイイとは思えなくて。
でも、大人になって見てみると、Z3のたたずまいに惚れ込んでしまったんですね。
そんなとき、新天地からそれほど離れていない中古車販売店で現在の愛車となるBMW Z3ロードスター2.2i エディション2の売りものを見つけたんです。
友人に連れていってもらって現車を見た瞬間、「これだ!」と思い、即決しました。
母親にとってBMW Z3は新車当時を知るクルマだし、私がZ3に乗ることで少しは喜んでもらえるかなという想いもありましたね。
いまの愛車の存在を知ったきっかけを聞かせてください
初めてR129型のSLの存在を知ったのは、小学生低学年、おそらく5、6歳頃だと思います。
タミヤのメルセデス・ベンツ SL500AMGのプラモデル(1/24スケール)を見掛けたことがきっかけです。
この頃はガンプラやミリタリーのプラモデルに夢中だったんですが、中古ショップに行ったときに、たまたまタミヤのSL500AMGのプラモデルを見掛けて以来、ずっと頭の片隅にあったんです。
その記憶は大人になってからも不思議と残っていて、火が点くきっかけとなったのは、メルセデス関連のミーティングの手伝いをしたとき、知人のメルセデス・ベンツ560SEL(V126)に乗せてもらう機会があったんですね。
昔からメルセデスってずっと高嶺の花だという印象があったんですが、思い切って手に入れてみたい。それも、せっかくならば「FR・2ドア・直6エンジン」にこだわりたい。
そのことを560SELを所有する知人に話したところ、メルセデスでもその組み合わせのモデルがあると教えてくれたんですね。
そこで、「FR・2ドア・直6エンジン搭載のメルセデス」と「小さい頃に見たSL500AMGタミヤのプラモデル」の記憶がひとつになり、「SLを手に入れたい」と思うようになったんです。
そしてついにこの個体と出会うことになるのですね
それ以来、中古車検索サイトや個人売買などの情報を常にチェックしていました。
実車を観に行ったことも何度かありましたし「これいいな」と思う個体もあったんですが、タイミングが合わなかったりして、結局よいご縁に恵まれなかったんです。
昨年7月のことです。
後輩と飲んでいたとき、XのタイムラインにこのSLの投稿が流れてきたんです。
中古車販売店がアップした「FR・2ドア・直6エンジン」に加えて「希望していた前期モデル+ソリッドブラックのR129」という、すべての条件を満たした個体でした。
とにかく「現車確認希望」のDMを送って、後日観に行きました。
実車を見て運転席に座らせてもらった瞬間「すごくしっくりきた」んです。
初めて触れたのがうそみたいに。もはや迷う理由はありませんでした。
その場で即決です。
ただ、すでにZ3のローンを組んでいたこともあって、SLのローンが通るか分からなかったので不安でしたね。
それでも、結果として無事にローンの審査をクリアして、晴れて正式に契約することができました。
お店の方もR129のSLを乗り継いできた方で、前オーナーさんが大事に乗っていた個体だし、本当にR129が好きな人に乗り継いでもらいたいという想いがあったようです。
私にとってもあらゆる理想と希望を満たした個体であり、「オーナーがクルマを選ぶのではなく、クルマがオーナーを選んだ」かもしれないと思わずにはいられませんでした。
SL280が納車された日のことを覚えていますか?
納車は去年の8月上旬でした。
納車日は雨だったんですが、SL280が置いてある場所に着いたところでちょうどあがったんです。
お店の方から鍵を受け取り、初めて運転しました。重いアクセルペダルやブレーキフィールに驚きました。
Z3と同じ「FR・2ドア・直6エンジン」の組み合わせなんですが、こうも違うのかと知ることができたのは良かったですね。
納車直後、そしていま現在もそうなんですが、これほど早く手に入れることができると思っていなかったんです。
そんなこともあって「ついに買っちゃったよ」と「いまの自分がこのクルマを手に入れてよかったのかな」という、喜びと戸惑いが交錯しているんです。
職場までは公共交通機関で通勤しているので、クルマに乗れるのは休日のみ、なんです。実は仕事から帰って来て、自宅の駐車場にSL280とZ3が止まっているのを眺めるだけ。
もっとも「俺の愛車なんだ」と実感できる瞬間は、ジャッキを掛けてリフトアップして下まわりを触っているときかもしれません。
SL280とZ3の違いを教えてください
SL280の重厚さに対して、Z3はとても軽快です。
アクセルペダルをグッと踏み込んだらしっかり加速してくれますし、人馬一体感を味わえるのはZ3の方ですね。
SL280とZ3、そしてスープラ。長く乗りたいと思っているクルマは・・・?
この3台は固定です(キッパリ)。手放すつもりはありません!
117クーペも含めると4台ですね。今後さらに増える可能性があります(笑)。
愛車との一番の思い出は?
昨年10月に栃木県足利市で開催された「足利モーターフェス2025」に参加できたことですね。
もともとSNSでつながっていた後期型のSL320のオーナーさんと直接会って話すことができましたし、2台並べて展示できたのは良かったですね。
イベント終了後には2台並べて撮影しましたし。
失礼ながら、これまで愛車を手放そうと思ったことはありましたか?
一瞬、頭をよぎったことは正直いってありました。
念願だったSLを手に入れることができたんですが、1度だけ「本当に俺がこのSLに乗っていていいのかな」とすごく悩んだことがあったんです。
そのことを友人に話しました。その友人は私がSLを手に入れるまでの経緯をすべて知っているので、「こうして託してもらったSLをここで諦めるのか」っていってくれたんですね。
その瞬間ハッと我に返って「このSLの歴代のオーナーの想いを受け継いで『預かったクルマ』だからこそ、こんなヤワなことで降りちゃいけない!」と気づき、気持ちを切り替えることができたんです。
この個体より程度が良いSLが出てきたり、AMGの売りものが出てきても買い換えません。SLはこの1台でいいんです。
持つべきものは良き友人ですね!故障などは大丈夫ですか?
エンジンの回転がハンチングしたことがありました。
エアフロなどのセンサー類をすべて用意して、吸気系をすべてバラして清掃し、組み付け直したら収まりました。
原因はおそらくどこからか2次エアを吸っていたのかなと推測しています。
欲しいクルマ、乗ってみたいクルマ、買いたかったけど諦めたクルマは?
フェラーリ テスタロッサですね。
ボディカラーは黒。512TRではなくテスタロッサがいいです。
ご両親にSLを購入したことは伝えてあるのですか?
いずれバレると思ったので母には伝えました。でも父にはまだ伝えていないんです。この記事の存在を知ったらバレますね(苦笑)。
もしバレたら「なんでベンツなの?」といわれるでしょうね。V6エンジンのモデルを買ったと思うでしょうから。
でも実際には直6エンジンですし、興味を示してくれるはずです。
久我さんが思う「愛車との理想の別れ方」「これだけは避けたい別れ」とは?
これはSLに限らずなんですが、手元にある愛車すべてに対して思っていることがひとつあるんです。
本当にそのクルマが好きで、好きで憧れている人、若い人でもいいし、年配の方でもいいです。
本当に憧れていて、絶対にこのクルマがいいっと断言してくれる人、私が心底そう思える方、自分の想いを超えた方に託せたとき…じゃないでしょうか。
これだけは避けたい別れがあるとしたら…やはり事故でしょうね。
久我さんにとって愛車とはどのような存在ですか?
「自分の写し鏡」だと思っています。
このSLは普段使いの小傷があるけれど、佇まいはしっかりしています。
前のオーナーのクルマとの接し方に1本筋が通ってるなと思うんです。その想いを受け継ぎつつ、自分なりの「1本筋が通す」接し方を貫いてみたいです。
最後に、前オーナーさんが記事を見つけてくれるかもしれないのでメッセージを
なかなかない仕様のSLですし、これまでどこかのタイミングで廃車になってしまってもおかしくないはずなのに、しっかりとメンテナンスしてコンディションを維持してくださったことにお礼の気持ちを伝えたいです。
どこまでお金を掛けられるか分かりませんが、このSLに対して前オーナーさんと同じぐらいの愛着は持っているので、そこは安心してください。
なぜ手放してしまったのか、その経緯を知りたいですし、できることなら1度お会いしてみたいです。
トランク右側のアンテナがどのような機能を持っているのか、調べても分からないんです。もしご存知でしたら教えていただきたいですし。
自分自身がこのSLから感じ取った前オーナーさんの想いが本当にあっているのかっていう答え合わせをしてみたいです。
メルセデス・ベンツSL280の取材を終えて思うこと
「オーナーがクルマを選ぶのではない。クルマがオーナーを選ぶのだ」。
これは筆者がオーナーインタビューをはじめたときから一貫して感じていることです。実際にはそんなことはありえないし、選んでいるのはオーナーです。
しかし、偶然とは思えない、運命の導きに違いない出会いが日本中に、そしておそらくは世界中にエピソードがあるはずです。
「クルマに選ばれたオーナー」に一貫していえることは「引力の強さ」、そして「その個体を想う強さ」です。
新車同様のコンディションを維持するオーナー、車体のあちこちに飛び石によってできた傷があるけれど、気にしないオーナー。自分好みにモディファイを楽しむオーナー。
本当にさまざまです。しかし、根っこの部分は皆同じです。
今回取材した久我さんも、間違いなく「クルマに選ばれたオーナー」といえます。
23歳の若さでアガリのクルマを見初めた久我さん。これからどういったカーライフを送ることになるのでしょうか。
[撮影/松村透・画像ご提供/久我玲士さん(スープラ/BMW Z3/足利モーターフェス2025)・ライター/松村透]





