1990年代 名車&迷車 烈伝 Vol.05 トヨタ「カローラ」8代目

目次
1.■コンセプトは「ベストコンパクトカーの創造」 2.■ベーシックセダンであるがゆえのジレンマ? 3.■マイナーチェンジによる軌道修正が功を奏した 4.■昭和的価値観の終わりに

1966年に初代がデビューし、現在販売されているのは2019年登場の12代目という、トヨタの看板車種にして、超ロングセラーモデルでもある「カローラ」。

その累計販売台数は5000万台を超えており、「ハイエース」や「ランドクルーザー」とともに世界で愛されている名車であることは間違いありません。

とはいえ、50年以上、通算12世代という長い歴史の間には当然、さまざまな試行錯誤や紆余曲折があり、中には迷いが見えたモデルも……。

それが、今回「名車&迷車」として取り上げたい、8代目カローラ(E10#型)です。

▲1995年 8代目カローラ

■コンセプトは「ベストコンパクトカーの創造」

8代目カローラは、1991年から4年にわたって販売されてきたE9#型モデルに代わって1995年に登場しました。

当時のプレスリリースでは、「トータル コスト オブ オーナーシップに配慮した社会との調和をめざすベストコンパクトカー誕生」が掲げられ、次のように説明されています。

「コンパクトカーの本質を追求した『ベストコンパクトカーの創造』を狙いに、ジャストサイズや高い品質を維持しつつ、まず、社会との調和をめざすという観点から、省資源、省エネルギーおよび安全性を追求。

そして、デザインを一新するとともに、走行性能を飛躍させた上で、価格、維持費を抑え、トータル コスト オブ オーナーシップに配慮している」

7代目カローラは、バブル期の波に乗り高級化。しかし、バブルが弾けてコンパクトファミリーセダンたるカローラの存在価値が見直され、「社会との調和」や「価格、維持費を抑え」といった言葉が並んだのです。

参考までに7代目では、「21世紀に向けて、『新時代を見すえた次世代基準の創出』を基本コンセプトに、来るべき“心に響く感動を求める時代”にふさわしい、新しいクォリティをもつグローバルジャストサイズカーをめざして開発した」と謳われていましたから、イケイケなバブル時代から、コストなどを考えざるを得なくなった時代背景が浮かんできます。

実際、7代目カローラは高級化路線に乗って開発され、「セルシオを意識した」とも言われます。内外装の質感も高く、市場でもそれが受け入れられました。 

▲1991年7代目カローラ

一方、フルモデルチェンジにより8代目となったカローラはというと、見るからに質素。

「ぶつけても目立たず、また部分交換で補修も容易に」と配慮され、無塗装ブラックのパーツを装着したバンパーは高級感に欠き、ナンバー位置がバンパーから6代目以前のようにトランクリッドへと移されたリヤは、どこか1980年代的でありコンビランプの形状や配色もあって、安っぽく見られてしまったのです。

 

▲1995年8代目カローラのリヤまわり

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■ベーシックセダンであるがゆえのジレンマ?

カローラというクルマの基本に立ち返り、「カローラってこういうものだよね」とベーシックセダンとしての姿を追求したこと自体はよかったものの、どこかで「カローラってこんなもんだよね」と、ベーシックセダンであるがゆえに上を見ることを忘れてしまったかのようでした。

これまで、「上級化」「高級化」を目指して進化してきたからカローラが、初めてその路線での歩みを止めてしまったのです。

これはもちろん、双子車の「スプリンター」も同様でした。

▲8代目カローラのインテリア

この変化をユーザーは受け入れられず、8代目カローラは迷走。デビュー翌年の1996年には、エクステリアの売りの1つであった無塗装ブラックのバンパーモールをシルバーに塗る仕様変更を行い、1997年のマイナーチェンジではついに別体モールを廃した一体型のフルカラーバンパーに変更されました。

また、インストルメントパネルのソフトパッド化など、インテリアの質感アップも実行。

モデルライフ後半には、すっかり“従来路線”に戻されたのです。

▲1996年 カローラ 一部改良モデル

▲1997年 カローラ マイナーチェンジモデル

ちなみに、最大のライバルであった日産「サニー」も、1993年の8代目はカジュアルで若々しい雰囲気で登場しましたが、こちらもマイナーチェンジでメッキのグリルを採用するなど、カローラと同様の変更が行われました。いずれも、試行錯誤が実らなかったというわけ。

■マイナーチェンジによる軌道修正が功を奏した

カローラの販売台数は、「カローラワゴン」「カローラレビン」「カローラFX」を含めた“シリーズ合算”となるため、セダン単体での台数は不明瞭ながら、1995年に発売された翌年は販売台数を減らし、質感アップのためのマイナーチェンジが行われた1997年は1995年を超えるレベルにまで回復しています。

マイナーチェンジによる軌道修正は、功を奏したといえるでしょう。

 

▲1997年 カローラ マイナーチェンジモデルのリヤまわり

その後、8代目カローラは2000年まで生産が続き、NCVカローラと呼ばれた9代目へとバトンタッチします。

NCVには、「New Century Value=新しい世紀の価値」という意味があり、キャッチコピーは「変われるって、ドキドキ。」でした。

ここからも8代目に対するトヨタ社内の評価が見えるような気がします。

▲9代目 NCVカローラ

では、8代目カローラはダメなクルマだったのでしょうか? 販売的には成功しなかったかもしれませんが、そこはトヨタが真面目に考えた世界のカローラです。

実用的な世代としての実力は高く、手堅く作られたクルマだったといえるでしょう。

一部の輸入車好きの中には、軽量な1.3リッターモデルに対し「どこかフランス車のような乗り心地だ」と評する人もいたほど。

あまりに真面目に作りすぎてしまったがゆえに、内外装のコスメティックを間違えてしまった……。これが8代目カローラを迷走へと導いてしまった要因でしょう。

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■昭和的価値観の終わりに

でも、仮に8代目カローラが当初から後期型のような内外装で発売されていたとしても、「結果はあまり変わらなかったのではないか」と筆者は見ています。

「名車&迷車烈伝」で何度も触れてきたように、1990年代は激動の時代です。1990年代後半は、日産「キューブ」やマツダ「デミオ」といった実用的でおしゃれなコンパクトカーも生まれてきますし、ファミリーカーは「イプサム」やホンダ「オデッセイ」といった3列シートミニバンに移行していきます。

もうファミリーカーとしてコンパクトなセダンを求める若年層は、いなくなっていたのです。きっと8代目カローラは、どんな形で出ていたとしても、悲運な世代となっていたのではないでしょうか。

[画像:トヨタ/ライター:木谷宗義]

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