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2025年4月13日(日)。広島県の複合レジャー施設「神石高原町ティアガルテン」で、今年も「車輪村2025」が開催された。
開催18年目を迎えた「車輪村」は、神石高原町の有志によって結成された「TEAM車輪村」が主催する、自動車文化を軸とした地域活性イベントだ。地域とのつながりを大切にしながら、モータースポーツの魅力や旧車の世界を広く伝える場として、毎年多くの来場者を迎える。
今回、前半は雨天に見舞われたが、イベント当日の様子をたどりながら車輪村が持つ魅力と、その根底に流れる想いを紹介していきたい。
■午前:風雨の中、スタート
9:00を過ぎ、風雨が強いものの、会場には次々とギャラリーが訪れた。駐車場周辺にはクルマの列が伸びていく。
レインウェアに身を包んだスタッフの皆さんは、冷たい雨に打たれながらも1台ずつ丁寧に誘導。さらに、足元の悪いなかを歩く来場者にもさりげなく目を配り「おはようございます」「足もと気をつけてくださいね」と声をかける。天候の厳しさよりも、スタッフの皆さんのあたたかさが勝った。
雨のなかの熱気!
10:00からのエクストリーム&ダートトラックバイクショー、まこつシビックパフォーマンス、ドリフトマシンパフォーマンスは雨の中の開催となった。
海外でも活躍するダートトラックの大森雅俊選手、スタントライディングのトップライダー木下真輔選手、沖縄県出身で新進気鋭の屋比久大選手、国際大会に参戦するなど活躍中の照屋則斗選手が登場。水しぶきをあげてマシンが舞うたび、大きな歓声と拍手があがっていた。
[写真提供/TEAM車輪村]
続いて、DIYカスタムや車両レビューで注目を集める人気インフルエンサー「まこつ」さんが登場。この日は自身の愛車、シビックを駆ってのパフォーマンスを披露した。動画と変わらない軽快なトークと走りで会場を盛り上げていた。
ドリフトマシンパフォーマンスでは、今年も国内のトップドリフターが会場を魅了。登場したのは川畑真人選手、日比野哲也選手、松川和也選手、石川隼也選手。そしてレジェンド“のむけん”こと野村謙選手、息子の圭市選手にも注目が集まった。
[写真提供/TEAM車輪村]
限られたスペースのなか、呼吸を合わせるように展開されるドリフト。スキール音とエキゾーストノートが観客のボルテージを引き上げていく。コースを目一杯使っての迫力のパフォーマンスに、ギャラリーは魅了されていた。
[写真提供/TEAM車輪村]
[写真提供/TEAM車輪村]
パフォーマンス終了後は、コース内への立ち入りが解禁された。天気も回復し、太陽が顔を見せた。選手たちはサインや記念撮影に気さくに応じており、本番とはまた違う和やかな時間が流れていた。
とりわけ人気だったのが野村選手親子。サインと記念撮影を求める列が途切れることなく続いていた。
地元から訪れていたファミリーに話を聞いた。小学生の息子さんは野村謙選手の大ファンで、昨年の車輪村は都合がつかず悔しい思いをしたそう。「やっと来れた!迫力があった!」と話す息子さんのキラキラした笑顔が、まるで雨上がりの空とシンクロしているようだった。
■展示参加のオーナーにインタビュー
飲食ブースも営業をスタート。雨が降って肌寒いからか、あたたかいラーメンを求めて列をつくる来場者の姿があった。
お好み焼き、牛串、唐揚げなどの魅力的な店舗がずらり。毎年多様なグルメを楽しめるのも、車輪村の魅力のひとつとなっている。
■個性あふれるヒストリックカーたち
会場に並んだヒストリックカーやカスタムマシン。ジャンルも異なる車輌が一堂に会した。
■【VOICE】展示参加のオーナーにインタビュー
車輪村は、オーナー同士の交流の場でもある。
ヒストリックカー展示エリアでは、今年も国産旧車を中心に多彩な名車が並んだ。なかには数十年間1台と歩んできたオーナーや、部品調達から整備まで一人でこなすDIY派も。
オーナーの皆さんがどのようにして愛車と出会い、どんな思いで維持を続けているのか。それぞれのカーライフに耳を傾けてみた。
●プリンス スカイライン 1500 DX
オーナー:渡邉さん
スカイラインのオーナー・渡邉さんは90歳。愛車は新車から60年の付き合いだという。年齢を感じさせないハツラツとした様子に、こちらも笑顔になる。
スカイラインは、整備のほとんどを自ら手がけており、レストア済みのブルーのボディが印象的。
車輪村には開催当初から“皆勤賞”で出展しているそうで、スタッフの皆さんとも顔なじみ。この日も奥さまと一緒に来場し、イベントを満喫していた。
▲掲載された自動車誌の誌面も拝見
●スズキ ジムニー
オーナー:古谷さん
独自のスタイルで注目を集めていたのが、古谷さんのジムニーだった。エンジンルームを覗き込む来場者の姿が絶えなかった。
「悪路に強く、災害時にも頼れる1台。ジムニーは機能性と趣味性の両立が魅力です」
と話す古谷さん。昨夏にエンジン不調を起こしたため、以前に部品取り車から“収穫(摘出)”しておいた予備エンジンをオーバーホールのうえ載せ替えての参加となった。
この予備エンジン、入手当初から腰下がSJ30後期用、腰上がSJ10用のシリンダーにもオイル給油がされるタイプのものが付いているという、異なる世代のLJ50が組み合わされている。ある意味、歴代LJ50のいいトコ取りな仕様となっており、結果的に「耐久性はオリジナルを凌ぐのではないか」とのことだ。
車輪村にも初期から参加していて
「この車輪村は毎年、新鮮さを感じています。いろんなカスタムが一堂に集まり、見るだけでも飽きません。多彩な催しが楽しめて、幅広い世代が集う雰囲気も好きです」
と語っていた。
▲貴重な当時ものの解説書とパンフレット
●スズキ アルト
オーナー:三宅さん
通りすがる人々が足を止めて見入ってしまう、美しい佇まいを放つ三宅さんのアルト。10年越しの想いが叶い、念願だった2サイクルのSS30Vを1年半前に手に入れたという。
骨格からコツコツと自身の手でレストアし、塗装もホワイトに塗り替えた。時間と手間を惜しまず丁寧に仕上げたボディは、まさに三宅さんの愛情そのものだ。
「このクルマは、日常的にバリバリ乗っていて、雨の日も風の日も乗ります。維持も無理なくできてますね」
自分の手の内に収まっている安心感があり、何が起きても対応できる。だからこそ毎日乗れるし、長く付き合える。「自分にしっくりきている」と笑顔で話す三宅さん。
車輪村には5年ほど前から参加しているそうだ。
「さまざまなジャンルのクルマが見られる。新しい発見もあるし、規制のなかで毎年しっかり開催を続けているのはすごいですよね」
と話していた。
▲レストア中の写真も見せていただいた[写真提供/三宅さん]
●三菱 ミラージュ
オーナー:井上さん
井上さんのミラージュは、所有歴約20年。元のオーナーが4年、3万kmほど乗って手放した個体を購入した。ボディカラーは「アドリアブルー」だそう。
「私が三菱自動車に入社した年に、このミラージュが発売されたんです。生産にも関わっていました。やっぱり思い入れは強いですね」
部品の供給はすでに厳しく、特に外装モールの剥がれに悩まされているというが、あの頃の記憶が詰まったこのクルマを手放すつもりはない。
車輪村への参加は今回で2度目。昨年、旧車仲間に誘われて初参加し、そのおもしろさに魅了されたとのこと。
「運営スタッフの皆さんがとても精力的で、参加者を楽しませようという気持ちが伝わってきます。催しも一日中いろいろあって、世代を問わず楽しめるイベントですね」
と語っていた。
当日、筆者の機材トラブルで外観写真を残すことができなかった。運転席には、手をかけて乗り続けてきた歴史が息づいていた。
●来場者 小林さん
今年、自動車販売会社に入社したという小林さん。クルマ系イベントへの参加は今回が初めてで「見聞を広げたいです」と、会場をじっくり回りながら真剣にメモを取る姿が印象的だった。
「まだまだ勉強中ですが、クルマが好きです。今日はたくさん写真を撮っています。あとでしっかり復習します」
個人的に気になった車輌は、GTルックにカスタムされたホンダ NSXだそう。「オーナーの方にもお話を聞いてみたいですね」と目を輝かせる姿が印象的だった。
■フィナーレは笑顔のキャッチボール!
午後4時頃、フィナーレのヒストリックカーパレードが始まるころには、空はすっかり晴れ渡っていた。展示車輌がパレードしながら帰路につく。
沿道には、スタッフたちの姿があった。スタッフであり「車輪村を大切に思うひとり」として1台ずつ送り出す。あるオーナーは、クラクションを鳴らしながら何度も会釈して走り去る。別のオーナーは、助手席の子どもと一緒に手を振っていた。
「ありがとうございました!」というスタッフの声は、途切れることがなかった。来場者のクルマも含め、最後の1台が見えなくなるまで見送り続けた。地域と人をつなぐホスピタリティを感じずにはいられない、あたたかい場面だった。
■編集後記
雨で始まり、晴れで締めくくった2025年の「車輪村」。天気もドラマの一部になってしまったように感じられた。クルマ愛・地元愛・人のつながりが、今年も会場を熱くした。神石高原での再会を、来年も心待ちにしたい。
※なお、当日は雨の影響による機材トラブルのため、一部車輌の写真を掲載できなかったことをお詫びいたします。
[写真提供/TEAM車輪村]
[ライター・カメラ / 野鶴美和] [取材協力・写真提供 / TEAM車輪村]