事業用で所有しているクルマは、基本的に分割して経費計上する必要があります。しかし、減価償却期間中でも売却できるのか調べている方もいるでしょう。減価償却期間中でも売却は可能なものの、会計処理が複雑なため、事前に理解を深めておく必要があります。
この記事では、クルマを減価償却の途中で売却する際の仕訳方法や注意点などについて紹介します。
クルマの減価償却期間中でも売却は可能
クルマは減価償却期間中でも売却できます。ただし、減価償却期間中のクルマは事業の損益計算に影響があるため、売却時に得た「売却益」や発生した「売却損」を正しく仕訳しなければなりません。
売却益は、帳簿価格(帳簿に記載されているクルマの評価額)を上回った金額で売却した際に得た利益です。一方、売却損は帳簿価格を下回った金額で売却した際に発生した損益です。
減価償却期間中のクルマの帳簿価格を確認し、売却益を得たのか、または売却損が発生したのかをチェックしましょう。
なお、帳簿価格は「取得原価(購入価格 )− 減価償却累計額」で、算出できます。たとえば、耐用年数4年のクルマを100万円で購入し、3年目で売却する際の減価償却累計額は75万円です(各年の減価償却費は25万円)。
続いて、取得原価100万円から減価償却累計額の75万円を引き、帳簿価格を算出します。減価償却期間中のクルマは、会計処理が複雑なことに留意してください。
クルマを減価償却の途中で売却する際の仕訳
クルマを減価償却の途中で売却する際の仕訳は、「個人」と「法人」で異なります。また「税込処理」と「税抜処理」のどちらかを採用しているかによっても異なるため、仕訳方法を確認しておきましょう。
ここでは、クルマを減価償却の途中で売却する際の仕訳について紹介します。
個人
個人の場合は「譲渡所得」として計上し、売却益は「事業主借」、売却損は「事業主貸」で仕訳します。譲渡所得とは、資産を売却や譲渡した際に生じた所得のことで、所得税や翌年の住民税に影響します。
続いて、個人が減価償却期間中のクルマを売却した場合の仕訳について紹介します。
直接法(税込)
直接法(税込)で仕訳した場合の例を紹介します。
【売却益】
・購入価格......100万円(税込)
・帳簿価格......25万円(税込)
・売却額......30万円(税込)
・リサイクル預託金......6,000円(非課税)
借方勘定項目 |
金額 |
貸方勘定項目 |
金額 |
摘要 |
普通預金 |
30万円 |
車輌運搬具 |
25万円 |
売却額 / 帳簿価格 |
普通預金 |
6,000円 |
預託金 |
6,000円 |
リサイクル預託金 |
|
|
事業主借 |
5万円 |
売却益 |
合計 |
30万6,000円 |
合計 |
30万6,000円 |
|
【売却損】
・購入価格......100万円(税込)
・帳簿価格......25万円(税込)
・売却額......20万円(税込)
・リサイクル預託金......6,000円(非課税)
借方勘定項目 |
金額 |
貸方勘定項目 |
金額 |
摘要 |
普通預金 |
20万円 |
車輌運搬具 |
25万円 |
売却額 / 帳簿価格 |
普通預金 |
6,000円 |
預託金 |
6,000円 |
リサイクル預託金 |
|
|
|
|
|
事業主貸 |
5万円 |
|
|
売却損 |
合計 |
25万6,000円 |
|
25万6,000円 |
|
直接法(税抜)
直接法(税抜)で仕訳した場合の例を紹介します。
【売却益】
・購入価格......100万円(税込)
・帳簿価格......25万円(税込)
・売却額......30万円(税込)
・リサイクル預託金......6,000円(非課税)
借方勘定項目 |
金額 |
貸方勘定項目 |
金額 |
摘要 |
普通預金 |
27万2,728円 |
車輌運搬具 |
22万7,273円 |
売却額 / 帳簿価格 |
普通預金 |
6,000円 |
預託金 |
6,000円 |
リサイクル預託金 |
|
|
仮受消費税等 |
2万7,272円 |
消費税 |
|
|
事業主借 |
1万8,183円 |
売却益 |
合計 |
27万8,728円 |
合計 |
27万8,728円 |
|
【売却損】
・購入価格......100万円(税込)
・帳簿価格......25万円(税込)
・売却額......20万円(税込)
・リサイクル預託金......6,000円(非課税)
借方勘定項目 |
金額 |
貸方勘定項目 |
金額 |
摘要 |
普通預金 |
18万1,819円 |
車輌運搬具 |
22万7,273円 |
売却額 / 帳簿価格 |
普通預金 |
6,000円 |
預託金 |
6,000 |
リサイクル預託金 |
|
|
仮受消費税等 |
1万8,181円 |
消費税 |
事業主貸 |
6万3,635円 |
|
|
売却損 |
合計 |
25万1,454円 |
合計 |
25万1,454円 |
|
税抜処理の場合、売却額の消費税分を「仮受消費税等」として仕訳します。なお、税込と税抜では合計金額が異なるものの、最終的に租税公課で調整するため、課税される税金は同額です。
法人
流れは個人のときと同じものの、法人の場合は「固定資産売却益」または「固定資産売却損」の勘定科目で仕訳します。続いて、法人が減価償却期間中のクルマを売却した場合の仕訳について紹介します。
直接法(税込)
直接法(税込)で仕訳した場合の例を紹介します。
【売却益】
・購入価格......100万円(税込)
・帳簿価格......25万円
・売却額......30万円(税込)
・リサイクル預託金......6,000円(非課税)
借方勘定項目 |
金額 |
貸方勘定項目 |
金額 |
摘要 |
普通預金 |
30万円 |
車輌運搬具 |
25万円 |
売却額 / 帳簿価格 |
普通預金 |
6,000円 |
預託金 |
6,000円 |
リサイクル預託金 |
|
|
固定資産売却益 |
5万円 |
売却益 |
合計 |
30万6,000円 |
合計 |
30万6,000円 |
|
【売却損】
・購入価格......100万円(税込)
・帳簿価格......25万円(税込)
・売却額......20万円(税込)
・リサイクル預託金......6,000円(非課税)
借方勘定項目 |
金額 |
貸方勘定項目 |
金額 |
摘要 |
普通預金 |
20万円 |
車輌運搬具 |
25万円 |
売却額 / 帳簿価格 |
普通預金 |
6,000円 |
預託金 |
6,000円 |
リサイクル預託金 |
固定資産売却損 |
5万円 |
|
|
売却損 |
合計 |
25万6,000円 |
|
25万6,000円 |
|
直接法(税抜)
直接法(税抜)の場合は、下記のように仕訳します。
【売却益】
・購入価格......100万円(税込)
・帳簿価格......25万円(税込)
・売却額......30万円(税込)
・リサイクル預託金......6,000円(非課税)
借方勘定項目 |
金額 |
貸方勘定項目 |
金額 |
摘要 |
普通預金 |
27万2,728円 |
車輌運搬具 |
22万7,273円 |
売却額 / 帳簿価格 |
普通預金 |
6,000円 |
預託金 |
6,000円 |
リサイクル預託金 |
|
|
仮受消費税等 |
2万7,272円 |
消費税 |
|
|
固定資産売却益 |
1万8,183円 |
売却益 |
合計 |
27万8,728円 |
合計 |
27万8,728円 |
|
【売却損】
・購入価格......100万円(税込)
・帳簿価格......25万円(税込)
・売却額......20万円(税込)
・リサイクル預託金......6,000円(非課税)
借方勘定項目 |
金額 |
貸方勘定項目 |
金額 |
摘要 |
普通預金 |
18万1,819円 |
車輌運搬具 |
22万7,273円 |
売却額 / 帳簿価格 |
普通預金 |
6,000円 |
預託金 |
6,000 |
リサイクル預託金 |
|
|
仮受消費税等 |
1万8,181円 |
消費税 |
固定資産売却損 |
6万3,635円 |
|
|
売却損 |
合計 |
25万1,454円 |
合計 |
25万1,454円 |
|
下取りの場合
下取りの場合は、クルマの売却と購入をそれぞれ仕訳します。下取りとは、現在所有しているクルマを売却し、売却金をそのお店で購入するための資金に充てることです。
ただし、クルマの売却と購入の仕訳を合算した方がスムーズな会計処理が可能です。
下記の条件で下取りし、それぞれを合算した場合の仕訳方法を紹介します(※直接法・税込・法人)。
【下取りしたクルマ】
・購入費用......100万円
・下取り費用......20万円
・リサイクル預託金......6,000円
・帳簿価格......25万円
【購入したクルマ】
・購入金額(車輌本体価格、オプション品)......150万円
・法定費用(自動車税や重量税など)......2万5,000円
・保険料(自賠責保険、任意保険)......3万円
・代行費用(納車や手続きなど)......4万円
・リサイクル預託金......1万円
借方勘定項目 |
金額 |
貸方勘定項目 |
金額 |
摘要 |
車輌運搬具 |
150万円 |
普通預金 |
140万5,000円 |
購入金額 / 購入金額−下取り価格 |
支払手数料 |
4万円 |
車輌運搬具 |
25万円 |
支払手数料 / 帳簿価格(下取り車) |
保険料 |
3万円 |
預託金 |
6,000円 |
保険料 / リサイクル預託金(下取り車) |
租税公課 |
2万5,000円 |
|
|
税金 |
預託金 |
1万円 |
|
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リサイクル預託金 |
固定資産売却損 |
5万6,000円 |
|
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売却損 |
合計 |
166万1,000円 |
合計 |
166万1,000円 |
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貸方勘定項目の普通預金は、購入費用160万5,000円から下取り費用の20万円を引いています。
ローン残債がある場合
ローン残債があるクルマを売却した場合は、下記のように仕訳します(直接法・税込・法人)。
・購入価格......100万円(税込)
・帳簿価格......25万円(税込)
・売却額......30万円(税込)
・リサイクル預託金......6,000円(非課税)
・ローン残債......9万円
・ローンの手数料......1万円
借方勘定項目 |
金額 |
貸方勘定項目 |
金額 |
摘要 |
普通預金 |
30万円 |
車輌運搬具 |
25万円 |
売却額 / 帳簿価格 |
普通預金 |
6,000円 |
リサイクル預託金 |
6,000円 |
リサイクル預託金 |
長期未払金 |
9万円 |
普通預金 |
10万円 |
ローン残債 / ローン精算 |
支払利息 |
1万円 |
固定資産売却益 |
5万円 |
ローンの手数料 |
合計 |
40万6,000円 |
合計 |
40万6,000円 |
|
クルマの減価償却の途中で売却する際の注意点
減価償却期間中のクルマの売却する際、会計処理が複雑なため注意点を把握しておく必要があります。ここでは、クルマの減価償却の途中で売却する際に気をつけるべき点について紹介します。
直説法と間接法を正しく使う
クルマの減価償却の途中で売却する際は、直接法と間接法を正しく使う必要があります。自社の会計基準や税務要件に合わせて、適切に仕訳をしましょう。
万が一誤った方法で会計処理すると、税務署から修正申告を求められることに注意が必要です。
なお、直接法と間接法は下記のようにメリットとデメリットが異なります。
種類 |
概要 |
メリット |
デメリット |
直接法 |
減価償却費を差し引いた金額を帳簿に記入 |
帳簿価格を把握しやすい |
固定資産台帳を確認しないと、取得金額と減価償却累計額を把握しにくい |
間接法 |
減価償却費の累計額を借方に記入し、帳簿上で減価償却を行う |
いくらで取得したのかを把握しやすい |
減価償却累計額を差し引かないと、帳簿価格を把握できない |
初めて会計処理を行う場合は、自社に合う方法で仕訳をしましょう。
税込と税別について理解する
クルマの減価償却の途中でクルマを売却する際、税込と税別について理解してから仕訳をしましょう。基本的には、自社で採用している方法に従って仕訳をします。
初めて会計処理を行う場合は、自社に合う方法を選択しましょう。
なお、税込処理での仕訳は、多くの中小企業や個人事業主が採用しています。正確な損益の把握や消費税額の把握が難しいものの、方法が単純なため会計処理の効率化が可能です。
一方、税抜処理での仕訳は、売上規模が大きい大企業が採用しているケースがほとんどです。会計処理が複雑化するものの、消費税率に変動があった場合にスムーズに対応できるほか、節税につながるケースもあります。
売却益と売却損における仕訳を理解する
クルマの減価償却の途中で売却する際は、売却益と売却損における仕訳を理解しましょう。具体的な違いは下記のとおりです。
項目 |
定義 |
売却益 |
クルマの帳簿価格を上回る金額で売却した場合(売却した際に得た利益) |
売却損 |
クルマの帳簿価格を下回る金額で売却した場合(売却した際に発生した損失) |
リサイクル預託金の仕訳も必要
クルマを売却した場合は、リサイクル預託金の仕訳も必要です。リサイクル預託金とは、廃車する際に必要な費用であり、新車購入時に支払います。
売却の場合は廃車にしないため、売却先からリサイクル預託金が返金されます。リサイクル預託金は非課税のため、売却額とは別で仕訳が必要なことに留意してください。
また、リサイクル預託金は下記で構成されており、情報管理料金は含めずに処理する必要があります。
・シュレッダーダスト料金
・エアバッグ類料金
・フロン類料金
・情報管理料金
たとえば、下記の場合は130円を引いた22,510円を帳簿に記載します。
・シュレッダーダスト料金 1万3,500円
・エアバッグ類料金 6,910円
・フロン類料金 2,100円
・情報管理料金 130円
迷ったときは専門家に相談する
減価償却期間中のクルマ売却の仕訳について迷ったときは、専門家に相談しましょう。仕訳では、例外が発生するケースもあります。
申告内容が間違っていた場合、修正申告をして正しい金額に訂正しなければなりません。二度手間になるため、迷った場合は税理士や会計士に相談してみてください。
減価償却が終わったクルマの売却の仕訳
減価償却が終わったクルマを、20万円で売却した場合の仕訳は下記のとおりです。
借方勘定項目 |
金額 |
貸方勘定項目 |
金額 |
摘要 |
普通預金 |
20万円 |
車両運搬具 |
1円 |
売却額 / 帳簿価格 |
普通預金 |
6,000円 |
預託金 |
6,000円 |
リサイクル預託金 |
|
|
事業主借 |
19万9,999円 |
売却益 |
合計 |
20万6,000円 |
合計 |
20万6,000円 |
|
減価償却が終わったクルマの帳簿価格は1円です。
また、個人事業主がクルマを売却した場合、50万円の特別控除が適用されます。売却益が19万9,999円から50万円を引けるため、譲渡所得は0円となり、所得税は発生しません。
まとめ
減価償却期間中でもクルマは売却できるものの、会計処理が複雑です。下取りに出した際やローン残債がある場合は、さらに会計処理が複雑なことに留意してください。
まずはクルマの帳簿価格をもとに、売却益または売却損を算出し、正確に処理しましょう。修正申告を求められる可能性があるため、会計処理について迷った場合は、必要に応じて税理士や会計士などの専門家に相談することをおすすめします。
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