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はじめまして、輸入車・旧車を専門とするライターの松村透です。
いくつかの自動車専門メディアで執筆しておりますが、この旧車王マガジンでは旧車の所有者に取材し、旧車を愛する方々の「そうそう、あるある」をお伝えしていきたいと思っています。
5回目となる今回は、前オーナーがこの世を去ったあと、周囲のクルマ好きの導きによって現在の愛車を手元にたぐり寄せたオーナーと、その愛車の物語をお届けします。
また本企画である、決して手放すつもりのない愛車と「もしも別れることになったら」についても考えてみます。
オーナープロフィール
SAWAです。年齢は62歳、勤めていた企業を定年退職して、現在は無職です。
所有するクルマは、1955年式ポルシェ356スピードスターです。
クルマが好きになったきっかけを覚えていますか?
幼稚園に通っていたころにはすでにクルマ好きでした。幼少期に住んでいた地域の周辺はマイカーを所有している人が少なくて、基本的に電車やバスで移動していたんです。
それだけに、クルマに対する憧れが強かったのだと思います。
中学生になると、友だちと話すことはクルマやバイク、そして音楽(ロック)が中心でした。当時、クルマだと街道レーサーが絶頂期で、音楽ではヴァン・ヘイレンやチープ・トリック、ディープ・パープルが人気でした。
同時期にブームとなったスーパーカーに熱狂していたのは、私より下の世代の方たちでしたね。6歳下の弟がまさにスーパーカーブーム直撃世代でしたよ。
SAWAさんのこれまでの愛車遍歴を教えてください
日産チェリーやローレルなど、日産車を何台か乗り継いだあと、フォルクスワーゲン タイプ1やタイプ3、カルマンギア、プーマというレアなモデルを所有していた時期もあります。
ふとしたきっかけでポルシェに乗るようになり、最初に手に入れたのは1973年式ポルシェ911Tです。その後、1968年式ポルシェ912や1964年ポルシェ365C、ポルシェ924に乗っていたこともあります。
現在はこのポルシェ356スピードスターと、普段使いをしているフランス車の2台体制です。
愛車であるポルシェ356の存在を知ったきっかけについて教えてください
はっきりとは覚えていないのですが、たしかポルシェの専門店か映画だったと思います。
学生時代にフォルクスワーゲン系のショップの方と仲良くなり、学校帰りに毎日のように立ち寄っていました。
ひんぱんに通っていると、工場にあるクルマの細かな進行状況が分かるようになってくるんですね。外されていた部品がクルマに取り付けられたり、整備が終わってエンジン音が軽やかになったり。その様子を眺めているのが楽しくて。
そのショップに、いまは亡くなってしまったんですが、Mさんというポルシェの世界では名の知られた方がいらっしゃるようになって。
「もしポルシェを買いたいのであればMさんが面倒を見てくれるよ」ということで、縁あって手に入れたのが73年911Tというわけです。
たしか150万円くらいで購入したと思います。
あと50万円くらい出せれば、911Tではなく911Sに手が届いた時代です。このころ、私は23、4歳で安月給だったこともあり、プラス50万円がどうしても捻出できなかったんですが…。
この911T、エンジンの調子は良かったものの、見た目もボロくてひんぱんに故障して苦労しました。
いまにして思えばハズレの個体でしたね。それでも6年〜7年ほど所有したあと1968年式ポルシェ912に乗り換えました。
912を所有していたときに結婚してマンション住まいとなり、青空駐車で雨ざらしになるのが忍びなくて手放しました。
それから10年くらい経ったころ、両親が高齢になり、所有していたクルマを整理したことで、実家の屋根付きの駐車スペースが確保できたんです。
久しぶりに古いポルシェに乗ってみたくなり、手に入れたのが1964年式ポルシェ356Cでした。この356Cに乗っていたときにさまざまなクルマのオーナーさんと知り合うこととなります。
そして、現在の愛車と出会うわけですね
356Cに乗っていたとき、車種を問わないクルマ好きが集まるクラブに入っていたんです。
そのメンバーのおひとりの住まいがあった軽井沢までツーリングを兼ねて仲間内で出掛けたんですが、数ある愛車のなかにこの356スピードスターが含まれていました。
このオーナーさんが実に太っ腹な方で、誰にでもご自身の356スピードスターを運転させてしまうんです。
なにしろ、古いクルマの運転経験がない妻にも「乗ってみたら?」と勧めてきたほどです(笑)。
その後、この方が他界してしまい、所有していた何台もの愛車を処分することになりまして…。そのなかにはこの356スピードスターも含まれていました。
どこからともなくうわさを聞きつけた人たちがご遺族のところにやってきて、「譲って欲しい」という依頼が相次いだそうです。
そんなとき、亡くなったオーナーと共通の知人が「SAWAさんなら大切にしてくれるから」と、ご遺族の方たちに話してくれたんです。
そんなご縁もあって、356スピードスターを譲り受けることになりました。
ポルシェ356が納車された日のことを覚えていますか?
覚えています。
エンジンが掛からない状態だったこともあり、キャリアカーを借りて友人と一緒に引き取りに行きました。
今後、走れるようになるのか一抹の不安はありましたが、同時に356スピードスターを手に入れることができた喜びの方が大きかったですね。
その足で主治医のところにクルマを運び、点検してもらったところ、簡単な調整で走れるようになったんです。このときは本当にうれしかったですね。
このとき、東日本大震災が起こる直前のタイミングで、あと1ヶ月引き取りに行くタイミングが遅かったらキャリアカーが借りられなかったんです。
現在の走行距離と所有年数はどれくらいですか?
所有歴は約15年、走行距離はメーター上の表示によると5万1300マイルです。私が手に入れてからは2万マイルほど走りました。
普段の移動にはフランス車を使うことが多く、356スピードスターに乗るのはイベントや仲間とのツーリングのときです。あとはコンディション維持のため、月に2、3回は乗るように心掛けています。
ポルシェ356が「一生モノになるな」と思うようになったのはいつ頃ですか?
手に入れる前からそのつもりでした。実際に手に入れて、主治医の手で動くようになったときに「これは一生モノになるな」という思いが確信へと変わりましたね。
愛車であるポルシェ356とのいちばんの思い出は何ですか?
繰り返しになってしまいますが、走らないクルマを主治医に預けて「直った!」との連絡を受け、引き取りに行ったときですね。
それまで356Cに乗っていたので、356というクルマのイメージは多少なりともつかんでいるつもりでした。
しかし、実際にスピードスター乗ってみると、クーペのような「カッチリ感」はない代わりにクルマが軽いんです。クーペとの明確な違いに驚きました。
クーペの356とスピードスターは別モノなんですか?
やっぱり違いますね。さらにいうと、オープンモデルでも違いがあるように感じます。
356のオープンモデルって「カブリオレ」「ロードスター」「スピードスター」「コンバーチブルD」の4種類が存在します。
コンバーチブルDは運転した経験がないので言い切れない部分はあるんですが、オープンモデルのなかでもスピードスターは特に身のこなしが軽いんです。
それとフロントウィンドウやサイドスクリーンが小さいため、より着座位置が低く感じる点も魅力です。
欲しいクルマ、乗ってみたいクルマ、買いたかったけど諦めたクルマはありますか?
・欲しい車:ポルシェ911R
・乗ってみたいクルマ:ポルシェカレラ10
・買いたかったけど諦めたクルマ:ポルシェ930スピードスター
です!
失礼ながら、これまで愛車を手放そうと思ったことはありましたか?
1度もありません。私自身が運転できなくならない限り売りたくはないです。
SAWAさんが思う「愛車との理想の別れ方」「これだけは避けたい別れ」とは?
もし「愛車との理想の別れ方」があるとしたら…それは泣く泣く手放さなければならない状況に陥ったとき、私と同じか、それ以上に大切にしてくださる方に引き継いでもらえることでしょうか。
できれば日本国内に留まって欲しいですが、場合によっては海外に行ってしまうのもやむを得ないかな…と思いますね。
そして「これだけは避けたい別れ」は、やはり盗難などでクルマがなくなってしまうことです。
最後に、SAWAさんにとって愛車であるポルシェ356はどのような存在ですか?
「宝物」です!これに尽きますね。
ポルシェ356の取材を終えて思うこと
国産車からフォルクスワーゲンを経てポルシェの世界に足を踏み入れたSAWAさん。
愛車である356スピードスターは、多くのライバルのなかからSAWAさんがクルマから選ばれたように思えてなりません。
恋い焦がれたクルマのオーナーに「選ばれる」には「欲しい!」と周囲にアピールするだけではダメです。
熱意が必要なのはもちろんですが「この人(今回であればSAWAさん)なら大事に乗ってくれるだろう」という評価と信頼を得る必要があります。
撮影中も、356スピードスターのことを気に掛けている姿が印象的だったSAWAさん。天国の前オーナーもきっと喜んでいることでしょう。





