「自動車の美術を研究する」27歳の人生の変節点とホンダ・アコード

目次
1.■クルマとサブカルチャーを楽しむ人 2.■「最初は3万円のトゥデイを買うつもりで...」愛車との出会いのきっかけ 3.■ほぼ知識なし。直感が長い付き合いに 4.■「時代を抜き去るもの」先進的なボディに身を包んだデザイン 5.■アコードは人生観を変えるターニングポイントへと導いてくれた存在

■クルマとサブカルチャーを楽しむ人

2010年代の前半頃、とあるイラスト投稿のSNSでマニアックな国産車のイラストやアートを連日アップロードする男子高校生に出会った。

画面いっぱいに描かれたセリカ・カムリや初代ミラージュが印象的だったのを今でもよく覚えている。

自らの大好きなクルマを力いっぱいにインターネットを通して表現する姿勢は当時の自分にはとても素敵に感じられ、また少し羨ましくもあった。

それから数年が経過して筆者も社会人になった。

SNSを通じ勇気を出してクルマのオフ会に参加させていただく機会を得る。

当時そのコミュニティは、ネオクラシックな乗用車と20代前半のオーナーが多く集まるイベントであった。

主催者もやはり若き青年で、その人こそ数年前にSNSで出会った「自動車美術研究室」さんだった。

クルマが大好きな高校生は大人になり、若き自動車コミュニティの中心人物の一人になっていた。

▲グレードは最上級グレードからひとつ下の1.8EXL-S。現行の北米アコード(CV3型)のグレード”EX-L”にまで引き継がれる老舗ネームだ

自動車美術研究室さんは現在27歳。

名前が示す通り、自動車にまつわるさまざまなカルチャーに造詣が深い人物だ。

とりわけカタログやミニカー、ノベルティに書籍といった分野において目がなく、自らの家にはコレクションが所狭しと並べられているという。

好きが高じて始めたコレクションはただ集めるだけでなく、同好の士を集め”カーサブカルフェス”なるイベントを催し、毎回大勢のコレクターが集う会となっている。

また、自動車美術研究室さんが主催するミーティング、通称”ジビケンミーティング”は既に初開催から7年、多いときで200台以上の参加車両が集うイベントとなった。

そんな彼のクルマ生活におけるターニングポイントとなったという、1986年式のホンダ・アコードEXL-Sについて今回は触れていきたい。

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■「最初は3万円のトゥデイを買うつもりで...」愛車との出会いのきっかけ

「18歳で免許を取得してからはずっと欲しいクルマを探しながら2年の月日が経っていました。当初、ジェミニかスプリンターシエロの中古車を購入しようと考えていたのですが、知人がピアッツァを購入したこともあり、リトラクタブルヘッドライトのクルマへの憧れが凄く強まっていました。ただ、当時学生だったため予算がなく、先輩から3万円のトゥデイを購入するつもりでした」

口から飛び出してくる車種群に昭和63年前後の雰囲気が漂っているので注釈を入れておくが、平成28年頃のエピソードである。

当時、先輩から譲ってもらう予定だったトゥデイは故障中で修理が必要な状態だったそう。

そこでホンダの旧車に強い販売店を探し、インターネットで連絡をとるとそこに在庫していたのがこのアコードだったという。

一旦気になると大学の講義も手につかないくらい気になってしまい、学友のクルマに同乗して販売店へと見に行くこととなった。

「実際に車両を目の当たりにしたときに、デザインが超かっこいい!と思いました。当時はアコードのことはほとんど知らず、ただリトラクタブルヘッドライトがついているセダン程度の認識しかありませんでした。ただ、運転席に乗り込んだ瞬間”買うモード”に一気になってしまうくらい直感的にいいなと思える存在だったんです」

■ほぼ知識なし。直感が長い付き合いに

とんとん拍子でアコードに引き寄せられていった自動車美術研究室さん。

その個体にどこか運命的な感覚を感じ、購入を決めたという。

「実際に購入して手元に届けられた際、お店の人に”このクルマ、キャブだから気をつけてね”といわれ初めてキャブレターという機構を知るくらいに当時は知識がありませんでした」

▲リトラクタブルヘッドライトを開くと一変する表情。80sらしいデザインが逆に新鮮に感じられる。小糸製のハロゲンランプが収まる

購入したときは9万キロ前後、現在は124000kmと複数台の所有車を使い分けながら距離を刻んでいる。

購入してから8年間でアコードとは紆余曲折あり、1年間ほど主治医に預けたままで乗れなかった時期もあったとか。

「燃料ポンプ、ラジエター、サーモスタット、オルタネーター、エアコン。マフラーの修理はワンオフで製作してもらいました。ただ、これらの交換はアコードには定番で保守と消耗部品の交換といえるのではないかとも考えています」

そう笑顔で話す自動車美術研究室さんは、すっかり逞しくエンスージアストの道を歩んでいると感じる。

過去、エンジントラブルを疑った際に部品取り用の同型アコードを購入。

部品取り車はナンバープレートをつけるつもりはなかったが、置いておくほど朽ちていきそうなのが見ていられなくなり、エアコンが効かないながらも動態保存しているとか。

▲デュアルキャブのB18a DOHCエンジンを搭載。当時、最上級グレードのSi以外はインジェクションではなくキャブ仕様である

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■「時代を抜き去るもの」先進的なボディに身を包んだデザイン

自動車美術研究室さんがもっとも気に入っているところは開閉式のリトラクタブルヘッドライトの部分だ。

ヨーロッパおよびクリオ店専売のアコードCAは固定型のヘッドライトになるが、そちらにはあまり興味がないそう。

ミドルクラスのセダンとして上級車の装いを持たせつつ、先進的、かつトレンディな姿勢をデザインにまで注ぐところにホンダの精神を感じる。

妥協なく突き詰めた結果、国内外で販売記録的にもスマッシュヒットを生み出し、現在でも米国のモータリゼーション史に残るほどの存在となっている。

当時キャッチコピーだった”時代を抜きさるもの”は、単なる意気込みだけではないように感じられる。

外観を改めて眺めてみる。

低いノーズ、大きなキャビン、トランクのハイデッキ感。

人間を優先した車両のパッケージングを実現しながらも、デザインを巧みに成立させている。

CA型のアコードは「4ドアのプレリュード」を想起させるといわれるが、実際に並べてみるとその構成は大きく異なる。

しっかりとセダンに見えるようにしつつ、2ドアクーペのようなスポーティーさを融合させる。

スタイリングと設計が高次元に組み合った結果といえよう。

クルマの内外装に大きなモデイファイは加えないものの、3ヶ月に一回くらいの頻度で気分転換にホイールキャップを履き替えているそうだ。

足回りの変更は外観に大きな変化をもたらすので効果的な着替えであると感じる。

この時代のホンダ車のホイールキャップはナットと一緒に元締めされている車種も多い。

大ことなコレクションが飛んでいかない部分にも寄与するものだ。

▲純正の外観を保ちつつ気分によってホイールキャップを履き替える。今回はインテグラの物が装着される

次に内装を見てみよう。

▲低くコンパクトにまとめられながらもダッシュボード上部にはトレーなど機能的なレイアウト。ステアリングにはクルーズコントロールも装着される

グラスエリアを大きくとったデザインは当時のホンダの思想を大きく反映する。

シートにはオリジナルのハーフカバーを装着する。

当時を偲ばせるコレクション的に装着しているのではなく、夏場はモケットのシートが熱を持つためあくまで実用品として使っているとのことだった。

当時の部品は小変更点が多く、見た目は似ていても生産元のサプライヤーが異なるなどもあるという。

例えば、アコードのメーターも前期と後期に見た目の差異は少ないが、NS製とデンソー製がある。

知人が所有しているアコードのメーターが故障し、代替品を購入したところ製造元が異なりメーターは動作しないということに初めて気が付いた。

手痛い出費になったと推察するが、そんな、一つ一つの経験がオーナーの経験値を高めていることであろう。

■アコードは人生観を変えるターニングポイントへと導いてくれた存在

アコードを買う前と後では人生観がまるっきり変わったという。

クルマを買ったことによりオフ会など対外的にイベントへ参加する機会が増え、自然と今まで知り合うことのなかった知人が増えていったそう。

そのうちに自らイベントを企画するようになり、周囲の協力を得ながら規模は大きくなっていった。

「それまでもイベントに行って参加するなどはしていましたが、人を集めて矢面に立とうという気持ちはありませんでした。ただ、クルマを通して楽しい空間を作りたいという気持ちが強くなり、仲間と一緒にイベントを開催するに至りました。クルマのイベントはある意味自分が目立たなくて良いのが好きなんです。クルマを中心にした話ができ、SNSでその車種をきっかけに繋がりが増えていく、そんな点に魅力を感じイベントを続けていますね」

最後に今後、このクルマとどう付き合いたいかを伺ってみた。

「この先、クルマを取り巻く世界は大きく変わっていくと思います。たとえ電動車しか走れなくなった世界になったとしても乗り続けたいと思っています。アコードをEV化できるように準備していかなくちゃいけませんね!」

笑って話す自動車美術研究室さんの言葉は冗談めかしながらも、本気の決心を感じさせるものだった。

クルマを取り巻く文化、そしてそれらを楽しむ仲間たちと共に未来へと走り続けてほしい。

そう感じるインタビューとなった。

[ライター・撮影/TUNA]

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