ラジオ番組に携わったときに出会った「お手本と反面教師」にまつわる話

独立する前に勤めていた会社でラジオ番組の制作をしていた。

・・・といってもTOKYO FMやTBSラジオのような「キー局」ではなく、「コミュニティFM」という、いわばミニFMの番組の制作だ。

あまり知られていないことかもしれないが、個人や企業で「コミュニティFMの番組枠」を買えば、誰でも自分のラジオ番組を持つことができる。

1枠で30分とか、1時間とか・・・。

このあたりの区切り方は、コミュニティFM局によって異なるかもしれない。

さらに番組枠の金額についても、1時間で数万円〜(1ヶ月/毎週)など・・・。

雑誌やフリーペーパーの広告枠と同じで、相場はあってないようなものだ。

ラジオ局によってルールが異なるかもしれないが、お世話になったコミュニティFM局は3ヶ月ごとの更新と決められていた。

つまり3ヶ月限定で、自分のラジオ番組を持てるわけだ(短期間すぎて局の人は困るだろうが)。

毎週、気になるゲストを呼んでトークしてもよし。

トークはそこそこに、好きな音楽を流してもいい。

カネの目処さえつければ、クルマを増車する感覚で自分のラジオ番組を持つことも夢ではないのだ。

しかし、いまではYouTubeチャンネルのように、もっと手軽に、自由に自分自身で考えたコンテンツを発信できるようになった。

その結果、個人のチャンネルの地位や存在価値が飛躍的に向上したように思う。

公共の電波に自分の声や考えを乗せるか、YouTubeで自由に動画コンテンツを配信するか。

このあたりの価値観は人それぞれだろう。

筆者がラジオ番組を制作していた10数年前は「自分の声を公共の電波に乗せる」ことの価値や意義は今以上に大きかった。

自分自身(・・・の勤めている会社)がスポンサーなのだから、「常識の範囲内であれば」番組構成も自由だ。

筆者はその企画制作をすべて任されていた(社員が少ないので)、というのがコトの真相だ。

担当していたのは2時間と1時間の生放送を週に1本ずつ。

生放送の番組の企画構成から取材、出演交渉、音源の編集まで・・・番組パーソナリティ以外の仕事をほぼ1人で行っていた。

もともとラジオを聴くのは好きだったけれど、ラジオ番組の制作なんてそれまでまったくの未経験であり素人だ。

当然のことながらすべてが手探りだった。

最初に携わったとき、番組の構成が完成したのはオンエア当日の朝だった。

さらに、生放送の最中は番組ディレクターとしてパーソナリティの皆さんと一緒にスタジオに入らなければならない。

音源の再生はラジオ局の人が担当してくれたが、番組の進行役はディレクターである自分が行う必要がある。

しかも生放送なので、やり直しや編集ができない。

慣れないうちはこれが憂鬱で仕方なかった(生放送の雰囲気に慣れてくると収録では物足らなくなるのだが)。

ゲストの方があまりに饒舌でトークの時間を「割愛」したり、企業広報の人が原稿を棒読みして時間が余ってしまい、フリートークでどうにか間を持たせたり・・・(企業の看板を背負っているので迂闊なことがいえないのだ)。

そんなこんなで常にハプニングの連続だった。

さらに生放送なので、盆暮れ正月も関係ない。

いつだったか、元旦だか、2日にオンエア日がぶつかってしまい、年末休み返上で番組の構成を考えたこともあった。

お正月のオンエアは特番を組み、有名な噺家さんをゲストに呼んでそれなりに盛りあがったし、リスナーからの反響もあったので良しとしよう。

筆者は2本のラジオ番組の制作を担当していたので、それぞれのパーソナリティの人たちと必然的に密に連絡を取り合うことになる。

何を隠そう、番組のパーソナリティをしてくだったなかのお一人が「おぎやはぎの愛車遍歴」でお馴染みのモータージャーナリスト、竹岡圭さんだった。

別の番組の中継コーナーで竹岡圭さんにご出演いただく機会があり、2本目の番組を立ち上げるときに「ダメもと」でパーソナリティをお願いしたら引き受けてくださったのだ。

竹岡圭さん、自分たちは「圭さん」と呼んでいたけれど、とにかく一緒に仕事していて楽しいし、よい意味で「ラク」なのだ。

こちらが1いうことを10理解してくれる(逆にガチガチに決められた原稿読みは苦手らしい)。

勘が良くて、頼みやすくて、話しやすい、そして誰に対してもフェア。

業界の有名人だろうと、自分のようないち会社員だろうと平等に接してくれる。

そして、こちらがダメなところはダメときちんと指摘してくれる。

圭さんに次々と仕事が舞い込むのも当然だ。

(実際にはなかなかうまくいかないけれど)独立してからというもの、圭さんの人との接し方をお手本にさせてもらっている。

今振り返っても竹岡圭さんと男性ミュージシャンと3人で創り上げた番組は、毎週の生放送の時間が本当に楽しかった。

その雰囲気が電波に乗って、良い雰囲気で番組をお届けできたと思う。

そういえば、最終回では圭さんが生放送中に泣いてたっけ・・・(いつも明るい圭さんが・・・と、男性ミュージシャンと2人でびっくりした記憶がある)。

もう1度ラジオ番組を作ってみたい・・・と思えるのはこのお二人のおかげだ。

毎週2本のラジオ番組の企画構成を考えていたので、楽しいことがあれば、当然ながら辛いこともあった。

もう1本の番組は辛いことの方が多かった気がする。

こちらの番組には「主」がいた。

仮にAさんとしておこう。

当時は60歳前後だったように思う。

あらゆる分野に精通し、話題も豊富。

一見すると親しみやすい方だ。

たまに顔を合わせる知り合い程度の距離感なら「博識で親しみやすいおじさん」という印象で済んだかもしれない。

しかし、仕事で関わるとなると状況がまったく異なる。

仕事で関わるありとあらゆるメンバーとトラブルを起こす人だったのだ。

同じチームとして加わっていただいた女性ライターさんが「長年仕事をしてきたけど、はじめて一緒に仕事ができない人に会った」とギブアップ宣言をしてきたほどだ。

その結果、人間関係が壊れる。

それも修復不可能なレベルで。

当然、自分もターゲットになった。

そして人間関係も修復不能になった(それでもいいと思っている)。

この「主」が自分にとっての反面教師でもある。

どれほど博識で、ラジオパーソナリティとして有能であったとしても、関わる人たちの人間関係を破壊するような人は仕事を失うのだということをこのとき学んだ気がする。

それはさておき、ラジオ番組に関わるありとあらゆる人たちと衝突した結果、とうとう勤め先の社長ともトラブルになった。

誰もがAさんを避けるようになり、その怒りの矛先を向ける相手が当時の勤め先の社長だけになってしまったのだ。

社長は温厚な人だったが、Aさんの度重なる理不尽な要求についに堪忍袋の緒が切れた。

大鉈を振るい、改変時期(3ヶ月ごとに更新時期)に合わせて番組を強制終了させてしまったのだ。

それでも、最終回のときはセレモニー的なことも行い、花束も用意した。

そして翌週、この「主」が仕切る(スポンサーとして)形で新たな番組がスタートした。

しかも同じ番組名で、ペアを組んでいた女性パーソナリティとともに。

これには自分も社長もずっこけた。

リスナーからすれば、最終回を迎えたはずの番組とパーソナリティが、まったく同じカタチで翌週から新番組としてスタートしたのだから混乱したに違いない。

いきなりラジオ番組を始められるわけがないから、水面下で交渉していたことを知らせてくれてもいいものだ。

ラジオ局のスタッフも人が悪い。

ラジオ番組、ひいては生放送だとスタッフとパーソナリティがギクシャクしていると、なんとなく電波を通じて伝わってしまう。

友だちではないから仲良しグループでいる必要はないけれど、いい雰囲気で番組作りをするのは極めて重要だとこのとき学んだ気がする。

そのいい例が笑点だと思う。

いまとなっては懐かしい、歌丸師匠と円楽師匠の不毛な掛け合い(?)も、揺るぎない信頼関係があってこそできる(と断言できる)。

本当に不仲だったらこうはいかない。

二代目林家三平がわずか5年で自ら番組を降板したのも、他のメンバーや番組スタッフとの溝ができてしまったのではないかと推察している。

笑点の例はいうにおよばず、仕事のプロジェクトメンバーや、クルマ好き同士のグループなど、良好な関係を維持するのは個人的にはとても重要だと思う。

そのお手本となりうる竹岡圭さんと、反面教師のAさん。

同時期、それも独立する数年前にこのお二人と出会えたのは、後々、良い経験となったことは確かだ。

「この人と一緒に仕事がしたい」と思ってもらえるように努めたいと思う反面「この人と関わりたくない」と思われたらおしまいだ。

もちろん、自分自身への戒めを込めて・・・。

余談だが、この「主」であるAさんのラジオ番組はいまでも続いている。

オンエア開始からもう10年以上経つから、いまや立派な長寿番組だ。

ふと思い出して仕事のあいまにたまに聴いてみると、主であるAさん主導でやりたい放題やってるなあ(それはつまり、リスナーを置いてきぼりにしているなぁという意味だ)と思う。

そうそう、ひとつ思い出した。

自分のお金でラジオの番組枠を買っているのだから、(常識の範囲内であれば)何をやっても自由なのはたしかだ。

しかし、リスナーが置いてきぼりになってしまっては本末転倒だ。

リスナーを楽しませるサービス精神を忘れずにラジオ番組を作ろうと、あるとき心に誓ったことをふと、思い出した。

ラジオからクルマ関連のコンテンツ配信へと形態は変化したが、その想いは変わらない。

現在の仕事は「サービス業」だと思えるようになったのも、このときのラジオの仕事がきっかけとなっていることは間違いない。

[画像/Adobe Stock ライター/松村透]

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